「貧しくても食事より娯楽」に宿る貧困問題の本質

要約者レビュー

「貧しくても食事より娯楽」に宿る貧困問題の本質『貧乏人の経済学』
アビジット・ V・バナジー 、エスター・デュフロ著
みすず書房 408p 3000円(税別)

 貧困というものが「他人事」ではなく「自分事」として感じられるようになる――それが本書を読み終えた最初の感想であった。

 本書で扱われる事例は、東南アジアやアフリカ諸国のような、いわゆる発展途上国のものが中心である。貧困の現状がどのようなものなのか、その解消に向けてどのような手段が講じられており、その限界がどこにあるのかが、様々な事例とともに網羅的に解説されている。

 重要なのは、一面的な貧困のイメージにとらわれることなく、何が貧困を生み出し維持しているのか、その実態を正しく認識することだと著者は言う。そのうえで、先進国と呼ばれる国に住む「私たち」と、発展途上国に住む「彼ら」の違いが果たしてどこにあるのか、改めて私たちに問いかける。

 貧困にあえぐ人々は情報不足、弱い信念、問題の先送りといった欠点を抱えているとされるが、実際のところ、先進国の人々の大半も大した知識や信念などもっていないし、問題も先送りにされる一方である。「私たち」と「彼ら」を分けているのは、私たちが当然のように享受している諸々のサービスの違いだけなのかもしれない。

 貧困や格差といった問題は対岸の火事では決してなく、日本が抱えている現実的な問題でもある。本書を通して、貧困という問題の本質がどこにあるのか、今一度考えてみたい。 (石渡 翔)

著者情報

アビジット・V・バナジー

 カルカッタ大学、ジャワハラル・ネルー大学、ハーバード大学で学び、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学のフォード財団国際教授を務める。開発経済分析研究所 (Bureau for Research and Economic Analysis of Development) 元所長、NBERの研究員、CEPR研究フェロー、キール研究所国際研究フェロー。グッゲンハイム・フェロー、アルフレッド・P・スローン・フェローも歴任。2009年初代インフォシス賞など受賞歴多数で、世界銀行やインド政府など多くの機関の名誉顧問を歴任している。

エスター・デュフロ

 MIT経済学部で貧困削減開発経済学担当のアブドゥル・ラティーフ・ジャミール教授。パリの高等師範学校とMITで全米芸術科学アカデミーおよび計量経済学会のフェロー。2010年には40歳以下で最高のアメリカの経済学者に授与されるジョン・ベイツ・クラークメダル、2009年にはマッカーサー「天才」フェローシップ、2010年初代カルヴォ・アルメンゴル国際賞 (Calvo-Armengol International Prize) など受賞歴多数。『エコノミスト』誌により若手経済学者ベスト8のひとりに選ばれ、2008年から4年連続で『フォーリン・ポリシー』誌の影響力の高い思想家100人に選ばれ続け、2010年には『フォーチュン』誌が選ぶ、最も影響力の高いビジネスリーダー「40歳以下の40人」にも選出。