舛添要一前都知事の後釜をめぐって各党が火花を散らしている。7月14日の告示では野党統一候補の鳥越俊太郎氏、自民党の推薦を得た増田寛也氏、自民の推薦を受けずに立候補する自民党の小池百合子氏らの出馬が明らかになった。各党の思惑が絡み合い、三つ巴の戦いとなった今回の東京都知事選。その舞台裏を政局に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。

「自民党という巨大組織と戦う!」
メディア戦術に長けた小池氏の作戦とは

 政治資金問題をきっかけに、舛添要一前都知事が辞任を申し出てからおよそ1ヵ月。後任を決める東京都知事選の候補者が出揃った。なかでも、今回の選挙戦の軸となる鳥越氏・増田氏・小池氏については、自民・民進両党の足並みが乱れたため、正式な立候補に至るまでには紆余曲折があったという。

「まず、分裂選挙となった自民党は、早くから推薦者選びで党内がゴタついていました。舛添氏の辞任表明で次の都知事選挙が現実的になってきたころから、出馬したいという人が蠢きだしたのですが、その筆頭格が小池百合子元防衛相です。しかし、彼女は党内の森喜朗氏や安倍首相周辺の幹部にとっては『目の敵』。そのため、自民党は当初、小池氏ではなく、総務省事務次官を退官したばかりで、アイドルグループ『嵐』の櫻井翔の父親でもある桜井俊氏を擁立しようと働きかけていました」(鈴木氏)

自民党という「巨大組織」と戦う、という姿勢を鮮明に打ち出した小池百合子氏。野党統一候補となった鳥越俊太郎氏とともに、無党派層の支持を得やすい故候補者で、戦いは増田氏も含めた三つ巴となりそうだ Photo:ZUMA Press/AFLO

 ところが、党幹部が桜井氏に出馬の要請をするより早く、小池氏が出馬を表明したのである。

 これまで5つの政党を渡り歩き、「政界渡り鳥」と揶揄されることもある小池氏。自民党入りした直後も森派に所属するも、トップの森氏ではなく同派閥の小泉純一郎氏に接近するなど、勝ち馬に乗ろうとする姿勢が党内からの反発を生む原因になったが、そうしたしたたかさが今回も発揮されたようだ。。

「ある野党幹部が、『小池氏は、自分が先手を取れば桜井氏も慎重になって出馬要請を断ると踏んだ』と話していましたが、案の定、桜井氏は不出馬の意向を伝えました。そこで本来なら、自民党は世論調査でも断トツの支持を得た小池氏を推して一本化するところですが、党内の反小池勢力が都議団や区長会に根回しをして、前岩手県知事で元総務相の増田寛也氏を担ぎ上げたのです」

 

 一方、5日に都連会長の石原伸晃氏に推薦を依頼したが、すげなくされた小池氏。それでも翌6日には「むしろしがらみなく戦える」と、推薦なしでも出馬に踏み切ることを明言した。かくして、自民党は分裂選挙へと突入したのである。そして、14日の告示後は、巨大政党を見方につけた増田氏と、それに対抗する小池氏という構図で攻防を繰り広げている。

 

「メディア戦略に長ける小池氏は、自民党と戦う姿をあえて前面に押し出しています。世間に巨大組織に虐げられ、その組織に立ち向かう姿を見せることで、無党派層の支持を集める狙いがあるのでしょう」

 推薦依頼のためにマスコミが待ち受ける自民党都連に自らおもむいたかと思えば、その推薦依頼を取り下げに再度都連に足を運び、報道陣の前で「これからの戦いで推薦をちょうだいするのは、なかなか難しい」と状況を説明する。こうした、自民との対立を強調するかのような言動も衆目を集めるための演出だとすれば合点がいく。

「対して、増田氏を立てた自民党も『小池氏のバックには怪しい団体や組織がいる』といった情報を東京選出国会議員が流したり、市民連合の一部を自民党側に引き込んで増田氏の票を伸ばそうとするなど、対小池側への動きを強めています」