日銀が露呈した「金融政策の限界」という異常事態

揺らぎが発生している
日銀と金融市場の信頼関係

 今後の世界経済と金融市場の行方を占う上で最も重要なファクターは、米国の大統領選挙などの情勢だろう。恐らく、それと同じくらい重要な要素は、主要国の金融政策だろう。

 米国の米大統領選挙で、仮に共和党の候補であるドナルド・トランプ氏が当選すると、その影響はかなり大きいはずだ。今のところ、英国のEU離脱決定後の金融市場の混乱はひとまず収束した。しかし、ユーロ圏での反EU政党の躍進、英国とEUの離脱交渉の動向など不透明要素は枚挙に暇がない。

 ただ、政治の動きは気まぐれな人々が決めることを考えると、その展開を予見しづらい。「気にはなるが結果を見ないと動けない」というのが、多くの投資家の本音だろう。投票結果を確認し、その都度、対応を決定するのが現実的だ。

 一方、金融政策に関しては、ある程度の見通しを立てることができる。特に、英国のEU離脱決定後、主要国は先行きへの懸念を払しょくすべく、金融政策を重視して景気を支える姿勢を示している。

 従来は利上げの可能性もあったイングランド銀行(BOE)は、国民投票を境に金融緩和を志向した。欧州中央銀行(ECB)も追加緩和を進める可能性がある。年内の利上げの可能性を残した米連邦準備理事会(FRB)でさえ、ドル高、国際的な金融市場への配慮から、今後の政策運営には慎重だ。各国中銀の判断が、株価、金利(債券)、外国為替レートに影響し、ボラティリティ(価格変動率)は高まりやすい。

 そうした状況下で注目されるのは日銀だ。これまでサプライズ型の政策運営を行ってきた日銀と、株式や為替など金融市場の見方との間に溝が広まりつつある。冷静に考えると、日銀と金融市場の信頼関係に揺らぎが発生しているとも言える。日銀は、早期に市場との相互信頼の関係を再構築すべきだ。

金融緩和による景気回復には限界があり
限界という異常事態は修正の必要がある

 金融政策の基本的な役割は、金融システムの安定化や経済活動の円滑化を図ることだ。ただ、経済の発展段階によって、具体的な役割は少しずつ異なる。

 例えば、わが国の高度経済成長期(1954年~73年)、重化学工業を中心に多くの産業が設備投資などのための資金を必要としていた。この中で、日本銀行は市中の銀行に対して資金を積極的に供給し、産業界の資金需要に応えた。