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10月26日、政府は雇用・人材育成分野に3199億円を投じるなどとした2010年度補正予算案を閣議決定した。9月の内閣改造人事で、雇用政策通として知られる細川律夫厚生労働大臣が就任して以降、「年金一色だった前大臣(長妻昭議員)時代とは、政策の優先順位がガラリと変わった。現在、厚生労働行政の主眼は“雇用”に置かれている」(厚労省幹部)という。
まず、新大臣の手腕が試されるのが、労働者派遣法の改正である。すでに3月、その改正案は当時の鳩山内閣によって閣議決定されているのだが、今夏の参議院選挙で民主党が大敗したことで、その成立には黄色信号が灯っている。
改正案のなかで、自民党や公明党ら野党が反発しているポイントは二つある。製造業務派遣の原則禁止と、登録型派遣(仕事があるときのみ雇用契約を結ぶ派遣)の原則禁止である。
さらに、あるアンケート調査が民主党を追い詰める。10月に発表された東京大学社会科学研究所による「請負社員・派遣社員の働き方とキャリアに関するアンケート調査」である。それによれば、派遣社員のうち、製造派遣の禁止に「反対」が55.3%を占めて、「賛成」の13.5%を上回る結果となった。派遣法改正の主目的は、派遣切りに苦しむ“労働者保護”にあるはずなのに、当の派遣社員が失職を恐れて「ノー」を突きつけている結果は、政府にとって皮肉以外の何物でもない。
改正案の成立において、キャスティングボートを握るのは、公明党である。民主党と公明党がタッグを組めば、状況は一変する。会期中に公明党との調整ができなければ法案は審議先送りとなる。
ちなみに、与党・国民新党と、連立から離脱した社民党の協力を仰ぐという別の手段もあるが、その場合は、議決数に満たない参議院で否決された後に、衆議院へ法案が差し戻される“強行採決”というかたちを取らねばならず、国民の理解を得がたい。
では、民主党が公明党の協力を取り付けるためには、どのようなアクションが必要か。公明党は、派遣法の改正自体に異を唱えているのではなく、ある程度の規制強化には同調している。ただし、中小企業経営に甚大な影響を及ぼす製造派遣、登録型派遣の原則禁止については、規制が強過ぎる、という主張である。そこで考えられるのは、その2項目において、「規制強化の具合を緩めること」(関係者)だ。具体的には、「3年以内」とされている製造派遣への猶予期間を延長したり、中小企業のみを対象外へ置く措置を新たに設定することだ。
規制対象となる労働者は約27万人。彼らの切望、実情とは異なるところで、派遣法改正案の中身が大幅修正されるとしたならば、危険な話だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)