「在職老齢年金制度の下では、働くと年金が減ることから、高齢者の就業意欲がそがれる(高齢者の労働供給が減少する)」と前回述べた。以下では、この問題についてさらに詳しく議論しよう。
前回の図表1、2から、50%限界税率は、かなりの範囲で生じることがわかる。100%限界税率はそれほど多くは生じないだろうが、ありえないわけではない。
また、年金の絶対額を見れば、賃金がある程度以上だと、年金がゼロになるケースはごく一般的だ。65歳以上になっても、基礎年金しか受給できないのは、さほど稀なケースではない。
今後もデフレが続くと年金の実質価値が上昇することとなるので、「年金をもらえない」ことがもたらす問題は、いまよりも大きくなるはずである。
在職老齢年金の問題点:低賃金労働をうながす
ところで、「年金減額が就労意欲をそぐことになるか否か」は、実は自明なことではない。年金が減額されても、就業意欲が影響を受けないということもありうるのである。たとえば、「年金と賃金所得をあわせて一定額を確保したい」と考えられる場合だ。
この場合に何が生じるかを、数値例で説明しよう。いま、A氏は毎月40万円の生活費が必要なので、40万円の価値があると雇用主に評価される労働を、これまで行なってきたものとしよう。年金受給年齢に達して、毎月20万円の年金が受給できるようになった。しかし、「毎月40万円必要」という事情に変わりはないものとしよう。そこで、これまでと同じ労働を続けるものとする。
A氏が65歳未満だとすると、前回述べたルールにより、賃金収入が8万円を超える部分について、その半分に等しいだけ年金がカットされる。したがって、40万円の生活費を確保するために、賃金所得32万円を得、年金を8万円受給するわけだ(32万円と8万円の差額の半分である12万円だけ年金を減額される。なお、保険料が変化することの影響は無視する)。A氏にとっては、前と同じだけ働き、前と同じだけの総収入を得ているのだから、事態は一応は変わらない(経済分析の観点から厳密に言うとそうではない。この点は本稿の後半で論じる)。