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2016年12月13日 QREATORS AGENT

スモールビジネスを最先端でかっこいい存在にすれば日本は変わる

佐々木大輔・freee代表インタビュー

全自動のクラウド会計ソフト「freee」(フリー)を中心に、個人事業主や中小企業に対し、業務効率化の様々なサービスを提供しているfreee株式会社。設立からまだ4年というベンチャーにして業界No.1。その成長の秘密は何か。これからfreeeはどこへ向かうのか。佐々木大輔代表が語った。(文・牧野圭太)

Photo by Keisuke Yasuda

社会全体を変えるための一歩
いわばボーリングのセンターピン

 グーグルにいた頃、日本・アジアの中小企業のマーケティングを担当しました。オンライン広告を提供する仕事です。それがとても面白かった。例えば京都で代々「竹」を加工して販売している人がいて、その製品が日本全国で売れたり、世界で売れたりしている。でも半面、まだまだほとんどの人たちがその存在を知らない。もったいないと思うと同時に、スモールビジネスの可能性を感じました。

 アジア全体の責任者になって、マーケットをより俯瞰してみていると、オンライン広告以前にやらなければならないことが山ほどありました。そもそも企業のWEBサイトがなかったり、その質が低かったり、バックオフィスにもたくさんの問題があったり。それらはまったく解決されていないし、誰も解決するためのアプローチをしていなかった。

 以前に、ベンチャーでCFOをやっていたことがあったのですが、毎日毎日、経理の人が情報をすべて手で入力していた。「なんでこんなに入力しなくちゃいけないのか」と思い、業務内容をひとつずつ分析していましたが、原因はそのとき使用していた会計ソフトの限界だとわかった。

 経費が生まれる。受注が発生する。請求書をもらう。支払いをする。預金残高はいくらだから、いつ決済するべきか。それら全ての作業は、テクノロジーを活用し、クラウドを使い自動化できるはずなのだけれど、2011年ごろになっても誰もやっていなかった。

 会計ソフトのクラウド化や効率化は、広告と違って「あらゆる企業」で必要になるもの。だから、そこをテクノロジー化することができたら、社会全体を一歩前に進めることができる。ボーリングのセンターピンみたいに、すべてを変えていくことができる。まだ誰もやっていなかったし、やる意義もある。じゃあやってみようと思い、freeeの構想をスタートしました。

スモールビジネスから
日本全体を底上げしたい

ささき・だいすけ/1980年東京都生まれ。2002年一橋大学商学部卒。派遣留学生として、ストックホルム経済大学にも在籍。大学在学中からインターネットリサーチ会社でインターン、契約社員としてリサーチ集計システムや新しいマーケティングリサーチ手法の開発を手がける。卒業後は、博報堂、投資アナリストなどを経て、2008年グーグルに参画。日本市場のマーケティング戦略立案や日本、アジア・パシフィック地域の中小企業向けマーケティング統括を担当。2012年freeeを創業 Photo by K.Y.

 日本には数百万の中小企業や個人事業があると言われています。しかしながら、小さな企業であるほど、バックオフィスにかけるコスト比率は高くなります。雑務もあるし、契約もあるし、決算もあるし、申告もある。それは大変な作業です。金沢にある卸売市場では、バックオフィスを中心にビジネスを効率化することで一日のうち三時間ほどを効率化できたという事例もあった。

 例えば大企業を辞め、せっかく起業したのに、バックオフィスの手間で時間を割くのはとてももったいないこと。誰もが情熱を持って挑戦しているはずだから、できるだけ本業である「創造的な活動」に専念してもらいたい。自分がビジネスをやる意味や独立した意味、そういったものを追求する時間をもっと大切にしたい。

 新しいことにチャレンジするのは、小さい起業のほうが圧倒的に有利です。新しい会計ソフトを導入するにしても、大企業だと時間がかかる。セキュリティがどうとか、営業活動的にどうだ、とか、いろんな議論が起こって話が前に進まない。小さな企業であれば、意思決定のプロセスが少ない分、早く動くことができます。

 freeeを使って、日本にあるすべてのビジネスをアップデートしたい。町の八百屋も、小さな下町工場も、もちろんベンチャー企業も、すべての企業のあらゆるバックオフィス業務をサポートしたい。新しいテクノロジーを、日本のスモールビジネスに携わる人たちがいち早く導入していくことで「日本では小さい企業こそ進んでいて、生産性が高く、かっこよく仕事をしている」という実態をつくれるはず。

 日本はまだ大企業が進んでいますし、まだまだ開業率が低い国ですが、日本は「スモールビジネスこそが面白い」という逆転が起これば、チャレンジしやすくなるし、日本全体を底上げすることができる。

国内すべての会社に導入されれば
サービスからインフラになる

 freeeが目指している会計のクラウド化により、単に入力をサポートするだけでなく、企業同士(ユーザー同士)でつながれるようになります。アマゾンで物を買うように、受注・発注金の支払いまでを1クリックでできるようになる。紙の請求書もPDFの請求書も不要になり、すべてがfreee上で完結するようになる。それは画期的なことだし、バックオフィスコストが劇的に下がります。

 また、企業における会計情報をストックしていくことで、AI(人工知能)で経営アドバイスや、与信審査にも生かすことができる。今までは、バラバラに存在していた企業の会計情報。それが集まると企業経営の分析も進んでいき、ビジネスの成功率も高まっていきます。

 例えば、「ミシン」が生まれたことで「手で編む」ということが少なくなり、その分、より美しい服をつくることに専念し、より多くの服を作ることが可能になった。バックオフィスにおけるfreeeが、そのミシンのようになれればいいと思う。ビジネス上の「それはAIで分析できるよ」というレベルが上がっていくことで、人はより高度な分析や仕事をしていくことになる。短期的には、より忙しくなる人も増えるかもしれない。とにかく単純な業務をできるだけテクノロジー化して、創造的な本業により時間を使えるようになるほうがいい。

 5年後は、大抵のビジネスであれば、難しいことを考えなくても、本業だけやっていればビジネスがまわっていく社会になっていると思います。AIにより、ある程度の市場予測とかビジネス提案もパッと出てくる。人を増やしたいときも、手続きも何も考えずに、一緒にやろうよっていったら、給料の支払いも契約も簡単にできてしまう。5年後には、そんな社会になっているはずです。

 もっともっとバックオフィスの仕事は便利にすることができる。数百万社と言われている国内すべての企業にfreeeが導入され、つながり、効率化する。freeeは、日本中の企業活動に必要なインフラになっていきます。

イノベーションは
「斜め横」から生まれる

Photo by K.Y.

 創業前、freeeの企画段階の頃は多くの人から止められました。既存の会計に慣れている人たちはソフトに不便を感じていないし、もうそれに慣れているから変えたくない。新しいものは面倒だし、クラウドは不安です。freeeの構想を説明しても「これ欲しい」と、ピンと来てくれる人はとても少なく「今のままでいいじゃないか」そう言う人が多かった。

 会計の世界は、30年ほどの間、あまり変わってこなかった業界。代表的な会計ソフトが生まれたのが1983年であり、それ以降は実質的に多少のOSが変わっただけで、ハードウェアを伴うような大きな変化がありません。例えば、ゲームの世界で考えれば、30年でハード自体も大きく変化した。電話もそうです。会計ソフトの変化が少ないことはとても不健全なことです。

 もともと僕自身は、会計の専門ではありません。だからこそ「斜め横」から見ることで、新しい解決策に気がつくことができた。イノベーションは、多くの場合「斜め横」から生まれるものです。中にいると不便さにも気がつかないし、新しい解決策を思いつかない。当事者じゃないから客観的に見ることができて、「無駄」や「不合理」に気がついたりすることができる。だから「斜め横」という視点はビジネスにおいてとても大事なことです。

 また、「会社」ではなく「ムーブメント」をつくるという気持ちを持っています。それは「自分たちが社会を動かしているんだ」という実感であり、姿勢です。

 freeeで言えば、「今は小さな会社ほど非効率である」という今の社会の現実を変革し「スモールビジネスほど最先端でかっこいい社会」を創ろうとしている。一種のパラダイムシフトの実現を通してムーブメントに起こしていきます。そして、そういったムーブメントから、新しいイノベーションが生まれていく。

 給料がいいから、楽だから、そういった理由で仕事をするのではなく、世の中のビジネス全部をアップデートし、より創造的な社会を作り出すことに意味を持って仕事をする。freeeもそういう人たちの集まる組織でありたいと思います。

ルールがないのが唯一のルール
組織に必要なのは自主性

 組織に大事なのは、「権威」ではなく、「自主性」だと考えています。例えば、グーグルでは、自分がCEOだと思って仕事をしている人が多かった。「この仕事は社会的に意味があるのか」「ユーザーの価値になっているか」……仕事をする目的を自分で認識し、その解決策を自分で考える。そういうことができる組織は強い組織です。

 特にベンチャーにおいては、できるだけ社員みんなの自主性に任せたほうがうまくいく。そのためには、「ルール」ではなく、「価値基準」が大事になります。仕組みや規律で縛るのではなく、「組織らしさ」をみんなが把握して、自ら判断し、行動できる状態です。

 ベンチャーでは、半年前に決めた人事制度も役に立たなくなります。硬直化しないで、常に変わっていける組織、ルールのない組織が理想です。放っておくと組織や人って勝手にルールをつくってしまうものです。現状に縛られるのではなく、どんどん変わっていける組織にしたい。

 価値基準の共有のために、freeeは「言葉」を大事にしています。例えば、「バグ」を「ハッピー」と呼んでいます。それだけで雰囲気がかわる。「また、バグが出たよ」と嘆いてしまうところも「またハッピーだよ」と呼ぶだけで場の雰囲気が明るくなります。

 あと、マネージャーを、「ジャーマネ」と呼んでいます。手を動かすプレーヤーこそ主役であり、それをパフォームさせプロデュースする仕事なので、芸能人のマネージャーに近いイメージを持っていたいと考えて「ジャーマネ」と呼んでいます。

 多くの企業で見かけるような「いいこと」を言ってる風の優等生なスローガンは意味がありません。多少違和感があるようなものでも、組織のオリジナリティを感じる言葉を使うようにしています。

「ないものはつくる」
学生時代にビジネスの原体験

 僕がいた開成高校には、学校指定のバッグがありませんでした。他の私立高校のバッグが流行ったりしていて、みんな各々にバッグを手に入れていて「これはよくない」と思いました。だからタウンページでカバン屋を探して連絡して、開成高校のロゴを入れたバッグを400個ほど作った。それを予備校とかで売ったら、完売して追加発注することになりました。

 学校に怒られるかな、と思っていたら、逆に先生たちも喜んでくれて、結果としてそれが公式のようになった。今もその流れで学校指定のバッグが存在している。ライセンス契約を結んでおけばよかった(笑)。

 とはいえ学生時代は、特に起業したいと思ったことはありません。実家が美容師で、祖父も母も妹も叔父もみんな美容師。それで自分も美容師になるのかな、と思っていた頃に、テレビドラマの美容師ものが流行りになって嫌になり、そこから自分の何かを見つけようと思った。

Photo by K.Y.

 興味をもったのが、統計/データサイエンスです。実際のデータをいじってみたいと思い、「どうやらそれができるベンチャーがあるらしい」ということを聞いてベンチャーにインターンとして入りました。周りは「いつか起業したい」という人たちばかりでしたが、私はただデータをいじりたいだけだったので、一日中分析していました。

 データの分析作業は、データを整理することに多くの時間を使います。単調な作業なのだけど、とても時間がかかる。だからその作業を自動化するプログラムをつくりました。一晩寝かせておけば、データがある程度きれいになる。それでみんながよりよい、より高度な分析に時間を使えるようになり、働き方が変わった。問題をプログラムで自動化することで、人の作業がより創造的になる、というイノベーションをはじめて体感した瞬間でした。

freeeの普及を通じて
日本を「チャレンジする」社会に

 みんながもっと「自分のキャリア」を持ってほしい。なぜなら、ひとつの会社や組織に依存すると、社会全体のことを考えられなくなるからです。「社会をよくしたい」という気持ちを持ちづらくなる。みんながもっと主体的に生きてほしいと思う。もちろん起業だけがすべてではないが、起業もひとつの選択肢に入れてほしい。組織の中にいても「もし起業していたら」という軸を持っていると、普段の業務の質も変わってくる。

 グーグルでは、起業して戻って来るのも当たり前でした。尊敬する先輩でも「2社くらいつぶしたことあるよ」という人もいました。起業して、チャレンジした経験から、語れるところもたくさんあります。freeeにも起業したあとに入社してきた人材が何人かいる。

 freeeが普及することで、もっとみんなが「チャレンジする」社会になればいい。組織を運営する上で発生する雑務をfreeeが全部解決し、みんなが本業に専念できるようになれば、成功率はきっと高まります。それに、起業して仮に失敗したところで、価値を出せる人であればどこにでも戻れる。チャレンジしたことの失敗は、終わりではなく、始まりでしかありません。