見た目を捨て、自己否定を受け入れて生まれた「超立体マスク」柴田 彰・ユニ・チャーム グローバル開発本部 商品開発部 アシスタントマネージャー Photo by Masato Kato

 都内を走る電車の中、一人の乗客をずーっと見詰めてニヤニヤ、別の乗客に目を移すと今度はため息。怪しげな挙動を見せる男は柴田彰、48歳。日用品大手ユニ・チャームでマスクを開発している。

 車通勤が主流である香川県内のテクニカルセンターに勤務する柴田にとって、東京出張の楽しみは電車に乗ること。マスクを着けた乗客をたっぷり観察できるからだ。

 自社品を着けていると、小躍りする。他社品だろうと、間違った着用法の人を見つけると「上下が逆!」「もっとプリーツを開いて!」と心の中で叫んでいる。

 2009年4月にマスクを開発する部署へ異動し、マスク人生が始まった。翌5月、新型インフルエンザの国内感染が確認され、マスク需要が一気に跳ね上がった。パンデミックへの恐怖から、消費者、流通業者、公的機関など、各方面からの問い合わせが開発部署にまで殺到した。

 生産設備はフル回転で、新商品開発のテストに使う余地なし。一刻も早く増産に対応するべく、生産部門と奮闘した。数カ月で増産態勢を整えた直後、騒動が沈静し、マスク需要がピタリと止まった。

 マスク市場は真っ逆さま。家庭にマスクが溢れ返り、新たに買う必要などなかったのである。

「カラスてんぐみたい」
酷評されるも機能優先

 2000年代に入るまで、マスクは洗って使う、平面のガーゼタイプが一般向けの主流だった。ユニ・チャームは1995年、医療機関などに向けて使い切りの立体形状マスクを発売していた。口元に空間ができて息をしやすい上に隙間をつくらない、立体形状マスクの元祖である。