ビジネスに限らず様々な問題を解決する手法として、ファシリテーションが注目されている。ファシリテーションの普及に長年努め、最新作『ストーリーでわかるファシリテーター入門』(小社刊)を上梓した森時彦氏に、新著に込めた思いを語って頂いた。

基礎の大切さを
改めて問いかける

──森さんの最新作『ストーリーでわかるファシリテーター入門』が2月中旬に発売されました。本書はファシリテーションのスキルと心得をストーリー形式で伝えるものですが、まずは簡単にあらすじをお話し頂けますか?

 物語の舞台は全国に63店舗を展開するセレクトショップで、高齢になったカリスマ創業者が株式の過半数をファンドに売却してから業績が急落しはじめます。ファンドから送り込まれたプロ経営者はさまざまな施策で会社を立て直そうとしますが、創業家の離反、メインバンクの融資打ち切りなどの混乱も相次ぎ、業績は悪化の一途をたどっていきます。

なぜ、ファシリテーション・スキルを物語で伝えるのか?森 時彦(もり・ときひこ)神戸製鋼所を経てGEに入社し、日本GE役員などの要職を務める。その後、テラダイン日本法人代表取締役、リバーサイド・パートナーズ代表パートナーなどを歴任。現在はチェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役として組織活性化やリーダー育成を支援するかたわら、執筆や講演等を通じてファシリテーションの普及に努めている。ビジネス・ブレークスルー大学客員教授、日本工業大学大学院客員教授、NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー。

 そうした大きな動きの中、32歳の人事係長・南里マリコが小さな改革を始めます。インターネット上のビジネススクールで学んだファシリテーションを駆使して、ダメ店舗の一つでワークショップを行うのです。これはビジネススクールの課題として始めたものですが、彼女は営業本部長の嫌がらせを受けながらも粘り強くワークショップを続け、それが店舗改革、さらには全社改革へとつながっていくという物語です。

──本書はシリーズ10万部を超えた『ザ・ファシリテーター』の入門編という位置づけですが、なぜ入門編を書こうと思われたのですか?

 じつは、はじめから入門編を書こうと思っていたわけではありません。書き進めていく過程で、ファシリテーションの基礎にしっかり重点を置いた内容にするべきだと考えるようになったのです。それには2つの理由があります。

 一つは、ファシリテーションが日本で広く認知されるようになったのは嬉しいことですが、多くの方々の関心は高度なスキルとか派手なテクニックに向かいがちで、肝心の基礎が忘れ去られているのではないかと感じたことです。

 たとえばSWOT分析。戦略づくりの基本をまとめたカッコいいフレームワークで、見るからに役立ちそうですが、少なくとも私がこの20年間に関わってきたファシリテーションの現場で役立ったことは、ほんの1、2回です。むしろグランドルールづくりといった基礎的なことが重要なのに、それが忘れられている。

 場の空気に左右されずに良い話し合いをするためには、グランドルールづくりは想像以上に重要です。それを抜きにしてカッコいいフレームワークを取り上げようとするのは、何のための会議なのか、誰のためのミーティングなのかという基本をファシリテーター自らが見失っているように感じます。