特例公債法案が成立しないと日本版「財政の崖」が発生するのではないかと海外の金融市場関係者も関心を寄せている。10月下旬にシンガポールに出張したが、現地の市場関係者の目には、機能不全を起こして何も決められない日本の政府・議会はかなりお粗末と映っているようだった。投資対象としての日本の魅力のなさを再確認している空気が感じられた。

 それはそうだろう。彼らは、戦略的に政策を打って経済を成長させ続けてきたシンガポール政府を普段見ているからである。世界銀行・IFC(国際金融公社)は10月23日に、ビジネスを行いやすい国のランキングを発表した。世界185カ国の中で、シンガポールは7年連続で1位、日本は24位だった。「日本でビジネスを続けることは難しい」と言って、シンガポールに移った優秀な人材は数多くいる。

 この20年間でシンガポールと東京の関係は見事に逆転した。アジアの今後の成長に投資しようと世界から流入してくる資金のゲートウェイ(玄関口)は、今はシンガポールや香港であって、東京ではない。それは雇用機会の多寡の差としても表れている。差がついてしまった最大の要因は、市場を育成しようとする政策を当局が長年継続的に行ってきたか否かの違いにあると指摘する声は多く聞かれた。「東京市場はローカル化してしまったため、東京にいると投資のトレンドが見えにくくなる」といった冷ややかな声さえ聞かれた。また、「ブルーチップ企業(優良企業)がなくなり、高齢化が進む日本には、時間的余裕はもうないのではないか」と心配してくれる投資家もいた。