日本では優秀な”エリート”として評価されていても、海外でも同様の評価を得られる人は数少ない。日本人が知らない、世界が求める人材になる方法とは――?『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』著者の福原正大氏と、欧州の金融業界を中心にグローバルなキャリアを重ねてきた京都大学教授の河合江理子氏が、世界標準のエリートの条件について語ります。(取材・構成/田中美和)
ファイナンス理論を教えない日本の銀行
福原 私は、INSEADで初めてファイナンス理論や現在価値という考え方を知りました。
[京都大学高等教育研究開発推進機構教授]
筑波大学付属高校を卒業後、米ハーバード大学で学位、フランスの欧州経営大学院(INSEAD)ではMBA(経営学修士)を取得。マッキンゼーのパリオフィスでコンサルタント、ロンドンの投資銀行SG Warburgでファンド・マネジャー、フランスの証券リサーチ会社でアナリストとして勤務したのち、山一証券の合弁会社でポーランドの民営化事業に携わる。1998年より国際公務員としてスイスのBIS(国際決済銀行)、フランスのOECD(経済協力開発機構)で職員年金基金の運用を担当し、OECD在籍時にはIMF(国際通貨基金)のテクニカルアドバイザーとして中央銀行の外貨準備運用に対して助言を与えた。その後、独立して起業、2012年4月より公募採用で現職。
2013年夏頃、自身初となる著作をダイヤモンド社より出版予定。
河合 そうなんですか?福原さんは当時、東京銀行にお勤めだったんですよね?
福原 ええ。でも、日本の銀行は簡単な財務諸表の見方しか習いませんでした。理論よりも、まず“人を見ろ”と教えられるのです。ただ、どの社長も話すとすごい人のように見える(笑)。感情論に振り回され、理論に弱いのは、日本人全体に共通して言える特徴のように思います。
河合 せっかく欧米でMBAを取得しても、学んだ理論や枠組みを日本の組織内で生かしきれない人は多いですね。
福原 確かに、海外での学びを自らのキャリアに活用しきれていない事例は少なくありません。それから、“生え抜き”という言葉が好きな人事担当者が多いのも日本ならではでしょう(笑)。欧米に比べると人材の流動化が進みませんね。そもそも、人員カットに対する抵抗感が根強いですから。金融機関がいい例です。3つも、4つも合併しても、組織全体での人員はそれほど減りません。これでは、統合しても、効率性を高め、戦略的に海外と競争できるだけの力がつかない。
河合 海外の金融機関と比べると、日本の金融機関のサービスの質は見劣りしますね。銀行で窓口で長く待たされるのは驚かされました。
福原 昔ながらの日本企業の場合、稟議書を書いて上層部へ話を通すだけでも一苦労するでしょう。企業に限りませんよ。私は、IGSの経営の関係上、お役所や大手企業とのやり取りもあるのですが、紙資料の多さと手続きの時間の長さには辟易してしまいます…。
河合 日本企業がビジネスのスピードを上げ、世界市場で戦える競争力を身に付けるためには、まだまだ改革が必要ということですね。
もし負けたら、
別の分野で勝者になればいい
福原 既得権益をどう壊していくか…という視点が重要です。しかし、これがなかなか壊せない。既得権を人間関係の中で捉えてしまうから、一時的にでも相手に損失を与えるような決断が下せないのです。
河合 とはいえ国際的な競争にさらされる中で、グローバルに戦える力を十分に養ってきている日本企業もあります。業種や、個々の企業による差が大きいのでしょう。
福原 こうした議論をしていると、“競争にさらされる中で生まれる敗者はどうしたらいいのか?”という意見を言う人が必ずいます。でも、問題ありませんよ。ある一つの分野で負けたとしても、別の分野で勝者になればいい。生活や雇用のセーフティネットが整えられているのも、そのためなのですから。