今や新生児の約40人に1人が「体外受精」によって生まれているが、その実態は経験した人以外にはほとんど知られていない。
具体的に何をするのか?いくらかかるのか?といった基礎知識だけでなく、「受精卵のその後」「病院によって妊娠の基準が異なること」、そして「大まかな成功率」といった実態を『妊娠・出産・不妊のリアル』の著者・富坂美織氏が教えてくれた。
人工授精と体外受精の違い
人工授精と体外受精を混同している方がいるので、まずその違いを説明しておきましょう。
人工授精は先がやわらかいチューブの注射器を使い、子宮の中まで精子を入れます。しくみは自然の妊娠方法、つまり、セックスに近いでしょう。一方の体外受精のやり方は次に説明するように、採卵をしてとってきた卵子と精子を体外、つまりシャーレの中で受精させます。
ちなみに、紛らわしい「受精」と「授精」の漢字の使い分けですが、基本的に、
受精:卵子と精子が出会ってから、精子が卵子に入り融合するまでのプロセス
授精:卵子または生殖器に精子をふりかけたり、注入したりする行為
を指します。
では人工授精を行なう意味は何でしょうか。通常のセックスでは、精子は腟の中に射精され、ここから子宮を目指します。排卵期に頸管粘液の変化で精子が子宮内に入りやすくはなるものの、子宮の入り口の関門で大量の精子が死んでしまいます。
そこで、人工授精は注射器で子宮の中まで精子を入れてしまうのです(この際、そのまま入れると雑菌が入ってしまう可能性があるため、処理・調整した精液を注入します)。そうすると関門で死ぬ精子がなくなり、精子の数が少なかったり、運動率が比較的低くても、受精する確率が高くなります。ですから、腟内射精ができない、あるいは、軽度の男性因子、子宮頸管粘液の分泌不足といった場合には効果があります。
不妊治療に通うカップルですと、人工授精の場合の妊娠の成功率は5%~8%あります。精子が少ない、あるいは運動率が低い人には有効な方法です。
一般に精子濃度×運動率で表す運動精子濃度が、人工授精には1000万/㎖以上あることが望ましく、500万/㎖以下だと体外受精になります。