平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす「二地域居住」。東京生まれ、会社勤め、共働き、子ども3人。およそフットワークが軽いとはいえない「田舎素人」の一家が始めた往復生活には、想像を超える豊かさが待っていました。新刊『週末は田舎暮らし』から、本文を一部抜粋して紹介する4回連載の第1回。

日常に、田舎暮らしをインサートする

 時計を見ると、もうすぐ17時30分。ああ、もう帰宅時間、また保育園のお迎え時間ギリギリだ、と慌てて仕事を切り上げる夕刻です。今日は金曜日、積み残しの仕事はクラクラするほどありますが、それはパタンと閉じたパソコンの中。今週もあっという間だったなあ……さて帰る!

 電車に揺られ、バスに揺られ、保育園に寄って、ようやく家に着いたら今度はまた出かける準備です。いつもの移動用バッグを取り出して、ネコ二匹を入れるカゴも準備します。週末は小旅行? いえいえ、これからまた家に帰るのです。満天の星空の下でわたしたちの帰りを待っている、週末の我が家に。

 植木鉢の土さえもゴミ袋に詰めてゴミの日に出すしかない東京のコンクリート住宅地の我が家から、100年前とさほど変わらない田園風景の広がる緑深い里山まで、ドアツードアで一時間半。千葉県南房総市の中山間地に、わたしたち家族が週末に暮らす家はあります。

 出発は金曜夜。日中は物流トラックで混雑している東京の大動脈ともいえる都道、環状八号線を通って羽田方面に向かい、長大なトンネルと長大な橋で東京湾を横断する「東京湾アクアライン」を渡って房総半島へ。

 そのまま一気に房総半島の南端まで通っている高速「館山自動車道」を走り、しばらくすると街の灯りがどんどん減り、どんどん暗くなり、ほどなく終点というところで高速を降りて、前後に車の光が見えない暗い田舎道を行き、しいーんと寝静まった集落の農道をのぼっていくと、暗闇をはらんだ民家がぽつんと建っている。

 車のエンジンを切ると、体が浮くような静寂と、頭上には天の川。大抵はまだ東京で仕事をしている夫から「無事に着いた?」と入るメールに「着いたよ。こちら変わりなし」、あるいは「着いたよ。こちら草ぼうぼう!」と返信し、玄関を開け、冷気のたまる暗い部屋に「ただいま」と声をかけ、ぽっと部屋の明かりを灯すと、ようやく里山での週末時間が始まります。