イェール大学でPh.D.(博士号)を取得した脳神経科学者であり、マッキンゼーのコンサルタントとして活躍し、現在はヤフー株式会社でCSO(チーフストラテジーオフィサー)を務める安宅和人氏。そして、ベンチャー企業の経営者からマッキンゼーのコンサルタントを経て、オックスフォード大学でPh.D.を取得し、現在は立命館大学経営学部准教授として教鞭を執る琴坂将広氏。
マッキンゼー時代をともにし、それぞれの専門領域を超えて活躍する安宅氏と琴坂氏が、さまざまなトピックについて語る特別対談。対談は全3回。

物事の本質さえ伝えられれば生きていける

琴坂 最初に安宅さんとお会いしたのは、安宅さんがアメリカから帰国されてから1年くらいの頃ですよね。ご存じのように、私は安宅さんと仕事をご一緒した後に、マッキンゼーのドイツのオフィスに行きました。ドイツに行った後は、結局、9ヵ国くらいを転々として仕事をしたのですが、きっと安宅さんに教えていただいたことがなかったら、自分は生き抜けなかったと思います。

安宅 それはありがたいな。

琴坂 最初に感動したのは、安宅さんがプロジェクトの初期のインターナル・ミーティング(社内メンバーだけの検討会議)に、いわゆる「コンサルの資料」を持っていかなかったことです。それまでは、いろいろと分厚い資料を用意する人ばかりを見ていたので、「これだけで十分。それで本質が伝わるからオッケーだ」と言っていたのに感動したのを覚えています。

安宅 サブスタンス(本質的に意味のある内容)とクライアントの方々との信頼があれば大丈夫ですから、基本的に(笑)。

琴坂 英語1つ取ってもそうですね。それは安宅さんもご存じだと思いますけど、僕の英語は微妙だったじゃないですか。「こんな英語じゃダメだ!」と言われた記憶があります(笑)。

 私がドイツに転籍した後でも、ファクトベース(事実をもとにした議論)、まさにイシュードリブン(課題を中心とした検討)を実践していくことができたからこそ、拙い英語であっても、こいつの言うことは聞いた方がいいんじゃないかと考えてもらえたのだと思います。

安宅 サブスタンスだけあれば生き延びることができる(笑)。

琴坂 本当におっしゃる通りだと思います。海外でミーティングに参加しても、参加者はそれぞれいろいろなことを言ってはいますが……。

安宅 たいしたこと言ってないからね。

琴坂 そう、たいしたこと言ってないんですよ。

安宅 いくつかの国の人なんかはまくしたてて話すけど、同じことを100回言っても仕方ないじゃんって思うこともある(笑)。

琴坂 彼らはたくさんのことを言っているので、100回言ったら10回くらいはいいことを言っていて、それを中心に物事が動いていくわけですよね。私は100回も意見を言えません。ただ、10回の自分が意見を言えるところで、さくっと鋭い意見を刺すことができたのは、安宅さんと働いたあの期間があったからじゃないかなと思います。

安宅 よかったです。もし、そうだとしたら嬉しいです。

琴坂 言葉が不自由だったので、逆にコンサルティングの価値を少しずつ理解できたと思います。それはやはり、本質を突き詰めるという行為であり、本質的な問題解決を、そしてそれを実現するスキルを、クライアントさんと一緒に作り上げて行くという行為なのだと感じました。

安宅 すばらしい。