雲隠れする海運会社のオーナー
フェリー事故対応の驚くべき杜撰

 乗客・乗員470名あまりのうち、300人にも上る犠牲者・行方不明者が出た韓国のフェリー事故から、約1ヵ月が過ぎた。多くの人命が失われた痛ましい事件であり、軽々しく朴大統領の責任や韓国企業の安全対策の不備をあげつらうような、不謹慎な発言をするつもりは全くない。まずは、尊い命を失った犠牲者の冥福を心からお祈りする。

 事件発生後の約1ヵ月の間、事件についての意見を、韓国の友人や海運事情に詳しい日本人などに、可能な限り聞いてみた。それによって得られた見方や印象を、筆者なりに整理してみたい。

 様々な人にヒアリングをしてみて最も頭に残っていることは、今回の不幸な事件の背景には複雑な事情が潜んでいるということだ。事件の当事者である海運会社の実質上のオーナーは、宗教団体の教祖的存在であるという。

 宗教団体の教祖一族が、なぜ海運会社を経営していたのか疑問が湧く。宗教団体の地位を利用して安価な給与で従業員を集めていたとの報道もある。1つの見方として、当該海運会社は目先の利益を優先し、ほとんど安全対策を行っていなかったように見える。一方で、経営者一族は多額の財を成していた。

 朴大統領は事後的に法律を改正してでも、海運会社のオーナー一族の資産を差し押さえ、今回の事故の保障資金に当てると発言している。しかし、すでにこの企業は倒産しており、肝心のオーナーは出頭要請を完全無視して雲隠れしている。

 こうした事態が先進国で発生することは、おおよそ考え難いであろう。まさに驚愕に値する。犠牲者の遺族や国民からの怒りは、想像に難くない。その怒りの矛先は主に朴大統領に向かっており、同氏への支持率は50%を割る水準まで下落している。

 そうした一連の事態を冷静に見ると、韓国の等身大の姿が少しわかるような気がする。