2014年7月1日、改正生活保護法が施行された。国会での質疑において、政府は再三「運用は変えない」と答弁した。運用を変えないのであれば、そもそも法改正は必要なかったのであるけれども。

今回は、3回にわたった大阪市の生活保護行政レポートの最終回として、就労指導と実施体制(ケースワーカー数)の問題を紹介する。就労指導は、生活保護を利用させないための手段であってよいのだろうか? それ以前に、生活保護行政の現場を預かるケースワーカーは、せめて人数だけでも十分なのだろうか?

生活保護申請から28日目の却下
理由は「稼働能力あり」

 2013年10月25日、30代の男性が大阪市浪速区の浪速区保健福祉センター(福祉事務所)を訪れ、生活保護を申請した。男性は約2年前に起こした過呼吸発作をきっかけとして、いくつかの身体的症状が重なった末、就労を継続することができなくなった。直近の1年間は全く就労できておらず、貯金もなくなっていた。しかし28日後の11月21日、男性の生活保護申請は却下された。

 浪速区では、28日間、男性に何の対応もしなかったわけではない。

 男性はまず、医療機関で受診して身体の状況に関する医師の意見を得るよう指示された。医療機関は浪速保健福祉センターが指定した。10月30日、その医療機関は浪速区に対して「病状調査結果報告書」を送付した。傷病名に関しては「身体表現性障害の疑い」とあり、所見は「身体的精査の結果、明白な身体因がみとめられておらず、上記診断を考える」であった。「身体表現性障害」とは、概ね、いわゆる「心身症」「ヒステリー」に該当する傷病である。しかし、その診断は一回の診察で下せるものではなく、考えられる他疾患の可能性を慎重に除去していったあとで確定する。医師が「疑い」としているのは、まったく妥当であろう。

 ただ、「身体的精査」を行ったという記述、さらに精神疾患の可能性に関する所見が皆無に近いところから見て、医療機関は精神科・神経科ではなく、内科か家庭診療科、または総合病院であった可能性が高い。なぜ、「疑い」とはいえ、精神疾患である「身体表現性障害」と結論づけることができるのか。筆者は大きな疑問を感じるところだ。補足しておくと、「身体表現性障害だから働けるはず」という推論もまったく成立しない。

 ついで11月7日、波速区保健福祉センターで会議が持たれ、「家庭訪問による生活歴及び身体状況等の把握及び検診命令等を考慮して、総合的に判断した結果、主(筆者注:男性のこと)には稼働能力が有ると判断する」と結論づけられた。