メキシコ高速鉄道プロジェクトに
三菱重工が応札を「断念」?

 話しは少し前の10月19日にさかのぼる。この日、10月19日、レコードチャイナは「メキシコの高速鉄道プロジェクト、中国企業が唯一の応札者に=日本企業は断念」を見出しに、中国語記事の日本語訳を掲載した。これをヤフーニュースやエキサイトニュースが取り上げ、記事は瞬時に伝播。すると、日本全国の鉄道ファンから失望の声が上がった。

「メキシコは安全性より価格を取ったのか」――。

 記事はメキシコシティ~ケレタロ間高速鉄道国際競争入札の結果を伝えるもので、「日本の三菱重工、フランスのアルストン、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンスも入札を検討していたが、最終的には断念した」と報じられた。

 自称“乗り鉄”の友人にこの話題を向けると、電話の向こうから「ああ、それねえ……」と苦しそうな声が返ってきた。ニュースは彼の聞き及ぶところでもあり、「中国が唯一の応札者になったということは、安さ以外に理由はない。日本が入札断念したのは、メキシコ側がすべて価格で決めるとわかっていたからだろう」と解説を加えてくれた。

 一方、時期をほぼ同じくして、日本では10月20日、「海外交通・都市開発事業支援機構」が発足した。鉄道や高速道路などのインフラ輸出に官民連携で取り組もうと、いよいよ本腰が入ったのだ。だがそんな中で流れた「断念」というニュースは、決して幸先のいいものではない。世界の市場が最後には安全性ではなく価格を取るとしたら、高コストと言われる日本勢にとって勝負は見えているからだ。

 本当に三菱重工は「安い中国」に負けてしまったのだろうか。ことの次第を三菱重工の広報に問い合わせると、意外な答えが返ってきた。

「メキシコで高速鉄道の計画があるということは知ってはいるが、当社としてフォローはしていません」

「断念」もへちまもない。記事は事実に反していたのだ。