今までの20年は、ソフトウェア、ネットワーク、インターネットを中心に新産業を創出したアメリカが一人勝ちであった。これからの20年は、IoTが新産業創出のキーワードとなる。本連載では、IoT という新たなイノベーションの潮流と、それによりもたらせる産業革命について、シリコンバレーの現場から報告する。

【新連載】<br />アップルの大成功がIoT産業革命の扉を開いた校條 浩(めんじょう・ひろし)
ハックベンチャーズ マネージング・パートナー、ネットサービス・ベンチャーズ マネージング・パートナー
東京大学理学部卒、同修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)工学修士。小西六写真工業(現コニカミノルタ)にて写真フィルムの開発に従事。その後MITマイクロシステムズ研究所、ボストン・コンサルティング・グループを経て、1991年にシリコンバレーに渡る。1994年よりマッケンナ・グループのパートナーに就任。2002年に「ネットサービス・ベンチャーズ」を創業し、シリコンバレーでのベンチャー投資・インキュベーションと日本企業への事業コンサルティングを進める。2012年より大阪市特別参与、2013年~14年に同特別顧問。シリコンバレーから大阪に出向く異色のアドバイザーとして活動。関西初の独立系グローバルベンチャーキャピタル「ハックベンチャーズ」を設立。スタンフォード大学STAJE顧問、サンタクララ大学MSE-GIプログラム顧問、Japan Society US-Japan Innovation Award委員会理事、Silicon Valley Japanese Entrepreneurs Networkボードメンバー。主な共著書に『ITの正体』『シリコンバレーの秘密』(インプレス)、『日本的経営を忘れた日本企業へ』『成長を創造する経営』、訳書に『リアルタイム』『スマート・カンパニー』(いずれもダイヤモンド社)など。日経産業新聞においてコラム「新風シリコンバレー」を連載中。
Photo by Naoyoshi Goto

人がモノとつながることで
新たな価値を提供する

 IoTは、「Internet of Things」の略で、日本では「モノのインターネット」と直訳されているが、意味が分かりにくい。

 IoT は、そもそもモノとモノを直接インターネットでつなぐ「マシン・ツー・マシン」(M2M)やモノのひとつひとつにIPアドレスを付与するためのインターネットプロトコルであるIPv6などの技術的な分野を指した。それが、昨年くらいから広い意味で使われるようになった。

 過去20年、インターネットにより相互のコミュニケーションが劇的に変化した。それにスマートフォンやソーシャルネットワークが加わり、これらの新しいITインフラが生活の基盤となった。

 これからは、その対象が「モノ」にまで広がり、もともと技術的な概念だったIoTが新たな産業革命の推進役となり、あらゆる産業が大きく変化する時代である。その「人」「モノ」が渾然とつながり、新たな意味や価値を提供する仕掛けの総称がIoTだ。

 IoT の未来事業をすべて予測するのは難しいが、その兆しはベンチャー企業に見ることができる。例えば、米Fitbit(フィットビット)社は、手の動きを測定した活量データを蓄積・分析し、ユーザーの健康やフィットネスを管理するサービスを提供している。

 今までの歩数計と違うのは、データがクラウド側アプリケーションで管理され、スマートフォン上で様々な分析が簡単に行えること。さらに他のユーザーとの比較を行ったり、ユーザーのコミュニティーのなかでゲーム感覚でフィットネスを継続できる仕組みになっている。リストバンド型のハードウェアそのものは非常に単純だが、クラウドのサービスという新たな価値提供で一気に事業拡大した。

 Fitbitの成功を皮切りに、同様の発想のベンチャー企業が多く出てきている。対象は、各種スポーツ、赤ちゃん、ペット、介護、医療など様々である。このような分野は、「Quantified Self(自身の数値化)」と呼ばれ、「自分自身の体や生活の計測・数値化することにより生活の質向上をサポートする」という価値の再定義が進んでいる。「歩数計」というモノばかりと見ていると「歩数を測る」という価値から広がらないが、Quantified Selfと再定義することにより、価値提供の考え方が一気に広がる。