なぜか真夏になるとあちこちで開催される「耐久レース」。自転車、マラソン、トレイルランニングと競技はさまざまだが、参加者は競技中の水分補給に頭を悩ませるだろう。

 実はこの水分補給、一歩間違えると「低ナトリウム血症」という致命的な状態を引き起こすこともある。先日、米国から競技中の水分補給に関するガイドラインが発表された。

 低ナトリウム血症は、血液中のナトリウム濃度が極端に低くなった状態を指す。兆候は意識が遠のくような感じや、手足のむくみ、吐き気や頭痛など。放置すると錯乱など脳機能障害の症状が現れ、昏睡状態から時には死に至る。

 運動誘発性の低ナトリウム血症(EAH)は、アスリートが水やスポーツドリンクなどを必要以上にがぶ飲みしたときに発生しやすい。エクササイズ時間が4時間を超える運動や、軍事教練なみのジムワークのEAHリスクは高く、当然、耐久レース関係は最も症例報告が多い。

 ちょっと驚くのは、低強度のエクササイズでも油断は禁物であること。何と、ビクラムヨガ(いわゆる、ホットヨガ)もEAHリスクが高いのだ。発汗率が低いところにもってきて、生真面目に水分補給をし過ぎると体格の小さい女性はすぐに「がぶ飲み状態=低ナトリウム血症」に陥る。また、運動慣れしていない人の汗はナトリウム濃度が濃い、つまり体内からナトリウムが失われてしまうために、EAHリスクが高くなってしまうという。

 EAH新ガイドラインの勧告は至ってシンプルだ。いわく、「喉が渇いたときだけ、水分を補給するように心がけること」。渇く前の水分補給を指導された経験があると受け入れ難いかもしれないが、今の世界の趨勢は「渇いたら、飲む」である。

 さて、自分の給水が適正かを確認するには、いつもの給水付きで運動前後の体重を比較するといい。運動前より体重増なら給水過剰。適正な給水量は、体重減少量÷運動前の体重×100=脱水率(%)で2%程度だ。3%を超えるようなら、逆に給水不足である。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)