経営者は「強いものをより強くする」戦略をためらってはならない<br /> Photo:Yoshihisa Wada

お客さまを儲けさせられないで
持続的な成長などあり得ない

 2015年度も下期に入った。国内景気も企業業績とGDPの速報値のトレンドの食い違いや中国をはじめ海外の不安要素が日々盛んに論じられている。し かし、こういった話は私がコマツの社長・会長を務めた12年間に何度もあった。こういった時こそ「経営とは」についてしっかりした基軸を持つ必要がある。

 今回は、小松製作所(コマツ)が、2002年3月期に130億円の営業赤字を計上し、翌期には331億円の黒字に転換させた取り組みを振り返りながら、「選択と集中」「強い事業をより強くする」経営戦略についてお話ししたい。

 後に詳しくお話しするが、私は日本社会や日本企業が抱える最大の“風土的な欠点”は、「平均点主義」「総花主義」だと考えてきたし、今でもその考えに変わりはない。平均点主義とは平均点レベルであればよい、という意味ではなく、ひたすらに平均点レベルを上げることに力を注ごうとすることだ。そのために、高得点の部分をより高くすることより、低い部分に注力しがちとなる。

 誰が使うのかも分からないような機能をたくさん盛り込み、それで価格も高くなっているのに「技術の粋を集めた」とか「高品質・高機能」という言葉で自己満足している。経営側も、そのために経営資源を満遍なく投入しようとする。

 だが、果たしてそれで日本企業、日本産業は世界で勝てたのか。その裏には、「選択と集中」という経営戦略の巧拙がある。日本メーカーは、平均点主義の風土的な欠点を克服できず、またその問題の本質を見抜くこともできずに悪戦苦闘している。

 そもそも「経営」とは、限られた経営資源を選択と集中により投入し継続的に収益を上げ、株主や従業員などあらゆるステイクホルダーにバランスよく配分することだと私は考えている。

 そして、「継続的な利益」は誰からもたらされるかと言えば、お客さまからいただくものであり、それは「お客さまの価値をいかに向上させたか」の結果である。

 日本の建設機械業界を例にすれば、国内の建設機械価格は為替換算にもよるが多くの主要国に比べかなり安い。なぜかと言えば、我々メーカーだけでなく建設業も数が多く過当競争になり、結果としてお客さまが儲かっていないからだ。

 これではメーカー側も十分なリターンは取れない。機械メーカーがお客さまの生産性向上にまで踏み込まなければリターンは大きくならない。機械を売るのではなく、生産性向上という「ソリューション」を提供しなければ継続的な利益も、持続的な成長もあり得ないのだ。

 我々日本の多くの産業はビジネスモデルで欧米の後追いをしながらモノづくりの現場力で勝負してきた。しかし仮にビジネスモデルで先行して、モノづくりだけでなくお客様の現場も含めた現場力で勝負すれば我々は負けないはずである。