今回は、「子どもの医療費無料化」をテーマとして、貧困層にとっての医療費負担の意味を考えてみたい。生活保護では医療費は原則無料だが、「自費負担を導入したい」という財務省の意向は、年々、強くなってきている。医療費に少額といえども自己負担があったり、「後で戻ってくる立て替え払い」であっても立て替えるための費用が必要であったりすることは、貧困層に何をもたらすのだろうか?

「子どもの医療費は無料」でも
医療から遠ざかる子どもたち

 今回は、多くの自治体で無料化されていることになっている子どもの医療費を通して、

「自費負担がないから、不要なはずの医療の利用が行われ、患者と家族の問題行動に歯止めがかからない」

 という都市伝説を検証してみたい。

 というのは、生活保護の医療費については、一部自費負担や償還払い(立て替え払い)の導入が長年検討されてきており、2015年6月、財務省が「一部自費負担」を導入したいという強い意向を示したからだ(参考:財政審「財政健全化計画等に関する建議」35ページ)。もしも実現されたら、何が起こるのだろうか?

 子どもの医療費は、大人が自分自身のために支出する医療費とは異なる側面を持っている。特に子どもが小さいうちは、医療が必要かどうかを考え受診するかしないか判断するのは、子ども本人ではなく親だからだ。自分のことなら、結果がどうあれ「自分が決めたんだから」と納得できるかもしれない。しかし、子どものに対する親としては、そんなに簡単に割り切ることができるだろうか? 「病院に行って、お医者さんに何か言われるのはイヤ」を理由として、親が必要な医療を子どもに与えないことは、「医療ネグレクト」そのものでもある。

 長野県飯田市の病院で副院長を務めている小児科医・和田浩氏(60歳)は、

「よく『子ども医療費無料化』という言い方をしますが、そもそも「無料」ではない場合も多いのです」

 と指摘する。飯田市では現在、中学生までの子どもの医療費に対する助成が行われており、「一定の負担金」を除く全額が助成される(参考:飯田市「子ども福祉医療費助成制度について」)。

「長野県では、『償還(立て替え)払い』となっています。健康保険での患者の2割(乳幼児)・3割(小中学生)の自己負担は、いったん医療機関の窓口で支払う必要があるのですが、支払った立て替え分は数カ月後に金融機関の口座に自動的に振り込まれるシステムです。『いちいち申請しなくて良い』というわけです」(和田氏)

 しかし、全額が払い戻しされるわけではない。