九州地域の中では、いつも商都・福岡県の陰に隠れて地味な存在の熊本県。だが実は、経済指標で見れば確かな実力を備えている。熊本県の磁力はどこにあるのだろうか。

 新幹線の終着駅は栄えるが、通過駅は廃れてゆく──。新幹線が開業するたびに流布される通説である。

 だが、熊本県に限って言えば、この通説は覆ったといっていい。むしろ、九州新幹線が開業してから、熊本県の存在感は高まった。実際に、九州7県の実力を経済指標で比べると、実質総生産や就業者数など4指標で、商都・福岡県に次ぐ「2位」の座を獲得している。一体、熊本県の磁力はどこにあるのか。

 実は、今回の地震で甚大な被害が発生した地域には、大企業が多数本拠を構えている。益城町に再春館製薬所が、菊陽町にソニーセミコンダクタが、大津町にホンダ熊本製作所が、といった具合だ。

 熊本県には、潤沢な水や広大な敷地といった、工場立地に欠かせない優良資産がある。それらをセールスポイントとして、営業部長を自任するゆるキャラ「くまモン」も顔負けの積極的な企業誘致を行っていた。そして、地震リスクは低いとされてきた──。

 益城町に赴任していたビジネスマンによれば、「町は法人税収入で潤っているためジムが無料で使えるし、小売店などの生活インフラも充実している」という。また、車で30分もあれば熊本市内にも出られる。こうした住環境の良さが魅力となり人が集まってくる。企業からすれば、比較的安価で良質な人材を獲得しやすく、製造業のみならず、通販会社のコールセンターも集中している。

 熊本県は九州経済圏の勝ち組となった。そして、熊本県における産業集積が、自動車や半導体の一大生産地となった九州経済圏を支えてきたのは、紛れもない事実である。その成功モデルが、未曽有の災害で試練を迎えている。