1600万部を突破した『宇宙兄弟』、600万部を突破した『ドラゴン桜』などの人気マンガを担当する編集者・佐渡島庸平氏。1580万部を突破した『とある魔術の禁書目録』や、1130万部を突破した『ソードアート・オンライン』などのライトノベル編集者・三木一馬氏。トップ編集者2人の対談をお送りする。今回が最終回。

おにぎりの食べ方すら想像できるのが魅力的なキャラクター

佐渡島 この本(『面白ければなんでもあり』)の二章で、魅力的なキャラクターの重要性として、「『ワンピース』のメインキャラがババ抜きやっているだけで面白いだろ?」っていうことが説かれていて、僕もまったくその通りだと思ったんですよ。

 キャラって何なのかという説明をするときに、僕はよく、「たとえばコンビニのおにぎりを食べるときに、そいつなら綺麗に食べるだろうとか、グジャグジャになっちゃうだろうとか、それがイメージできるのが良いキャラクターだ」って言うんですけど、それと通じる考え方だなぁと思いまして。

三木 そうですね。キャラクターの重要性は言わずもがなですが、「みんなの思ってる以上に、このキャラクターはこんな行動をとるかもよ?」というようなことまで想像してくれるならベストです。

 昔はこれが壮大なストーリーの中で表現されていたり、読者が想像する「余地」を見せる……というだけだったのですが、今はすこし読者の嗜好が変わって、そんな「このキャラはどういった行動をとる!?」というネタ部分だけに特化して独立させた漫画や小説も増えているように思います。

 たとえば「シリアスなロボアニメの人気キャラがもしコンビニ店員だったら……」という漫画とか、「哲学にかぶれた青年がもし書店店員だったら……」という漫画とか……。昨今のキャラ特化モノの最先端というか、いわゆるコミックエッセイ的な見せ方とも言います。それらが何十万部も売れる時代ですから、やはり読者のニーズはインパクトをよりインスタントに得る、ということに寄ってきていると思いますね。ウェブの一枚ネタみたいなノリもそれに拍車をかけているのではないかと。

佐渡島 なるほど! 急に、なんで売れているか、僕には理解できていなかった作品が売れる理由が理解できました。こんなに腑に落ちる説明聞いたこと初めてです。マンガや小説も、インスタ、スナップチャット的な作品が、流行っているのですね。

三木 佐渡島さんが今おっしゃった、「コンビニの一場面でも『ワンピース』キャラなら面白い」ということを、最も特化させている一つの形態なんですよ。

佐渡島 それだけをやっているんですね。でも僕たちは、そういうキャラクターを物語の中で知りたいんですよね。

三木 そう、僕らの世代はそうなんですよ! だけど、今はそうでもないのかなぁ。

佐渡島 『面白ければなんでもあり』のなかで、作品を読んだ人が、「あの胸のデカいキャラ、名前なんだったっけ」って言えるっていうエピソードがあるじゃないですか。それって、キャラのほうを覚えていて名前を覚えていない=キャラが立っているということで、良い作品は、確実にそのような仕組みですね。

 だから、そういうところまで到達するように登場人物を作り込むっていう考え方も、もう大賛成で。そういったキャラクターの生み出し方も事細かに書かれていてビックリしました。

三木 僕の勝手なイメージですが、キャラクターのビジュアルはシルエットだけで誰がだれか分かるように、という意識しています。ベタなところですと、体型とか髪型からですね。

『ドラゴンボール』(ジャンプコミックス)の孫悟空はシルエット見ただけで誰でも一発で悟空って分かるじゃないですか。あとは、たとえば木刀を背中に差しているキャラがいたとしたら、それだけでもシルエットがかなり違う。僕はけっこうそういうことを重視しています。だから僕の編集者としての基本的なメソッドって、もう本当に漫画からなんですよ。

佐渡島 いや僕、それ今後、新人に必ず言うようにします! 「キャラクター作るときにシルエットで分るようにしろ」って。僕はいつもそれに似たところで、「そのキャラクターが駅にポスターとして貼られていて、興味を持つかどうかで見直すように」と言うのですが、シルエットで分るようにのほうが、伝わりますね。

三木 ラノベだと特に、イラストの枚数が10枚くらいなんですよね。その限られたチャンスにどうメインキャラクターたちを見せるか、配分するかも大事なんです。すべてのキャラクターを平等には出せないし、主人公も出せても3、4カット。その時にパッと見て覚えてもらうとなれば、ビジュアルもメリハリの特化しかなくて、一番わかりやすいのはシルエット……ということになりました。

佐渡島 それ重要ですね。いや、いいこと聞いたなぁ。