クリエイターのエージェント会社「コルク」代表、佐渡島庸平氏の処女作『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社)が昨年12月11日に発売になった。またちょうど同じ時期の12月9日に、株式会社KADOKAWAアスキー・メディアワークスの電撃文庫編集長(当時)・三木一馬氏の処女作『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』(アスキー・メディアワークス)が発売になった。

佐渡島氏は、1600万部を突破した『宇宙兄弟』や、600万部を突破した『ドラゴン桜』などの人気マンガを担当する編集者であり、三木氏は、1580万部を突破した『とある魔術の禁書目録』や、1130万部を突破した『ソードアート・オンライン』、860万部を突破した『灼眼のシャナ』などのライトノベルの編集者である。そんな、二大業界を牽引する、トップ編集者二人の対談をお送りする。

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できる作家は、お客さんの反応を見て自在に話を変える

佐渡島 僕たちは初対面ですよね。というわけで、はじめまして。ただ、お会いはしていませんが、お互いの存在は知っていましたよね。

三木 はい、そうですね。僕が佐渡島さんの二つ上で年も近いですし、こっちの小説業界にもよく噂は届いていました。

佐渡島 どんな噂でしょう(笑)。

三木 それはこれから……(笑)。

 そしてご挨拶早々、いきなりで恐縮なのですが、僕、「コルク」と契約する漫画家さん大好きなんですよ。三田紀房先生も小山宙哉先生はもちろん、安野モヨコ先生は『ハッピーマニア』(祥伝社コミック文庫)の頃から読んでました。ちなみに僕が一番好きなのは『花とみつばち』(ヤングマガジンコミックス)なんですけれど、まあそれは置いといて……。

佐渡島 はい(笑)。

三木 僕が一番最初に佐渡島さんの存在を知ったのは、たしか僕が集英社の週刊漫画編集者と呑んでいるときに、話題に上ったんです。

『ドラゴン桜』(モーニングKC)の制作秘話で、あの漫画を連載していたら、編集部に「こんないい加減な受験勉強法を教えるとは何事だ!」とお叱りの電話が読者からかかってきたと。そこで担当編集である佐渡島さんが対応したとのことで、読者が「あんな勉強方法で東大に入れるわけない! お前はどこの大学出てるんだ」と言われて「東大ですけど」と返事をして論破したという……。

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佐渡島 そんなことあったかな? なかった気もするけど、みんなが信じそうな話ですね。噂話は、たいていはそんな感じで、コルクができてからも相当、根も葉もない噂話の真偽を確認されることがあります(笑)。僕が東大卒なのは本当で、『ドラゴン桜』のときは、それを積極的にプロモーションに使いました。

三木 「すげー、『ドラゴン桜』の担当編集はやっぱり東大なんだ!」って思いました(笑)。そのときはお名前は存じ上げなかったんですけど、後日「コルク」として独立されるニュースを見て、「あ、あの人なんだ!」となりました。『宇宙兄弟』(モーニングKC)はずっと雑誌『モーニング』で読んでいましたし、『ハルジャン』(モーニングKC)も連載を追いかけていましたので。

佐渡島 ありがとうございます。

三木 優れた編集者だとは当然知っていたのですが、「コルク」代表になったあとは、糸井重里さんとか堀江貴文さんとも対談されていて、一介の現場編集者とビジネスマンを両立されていらっしゃるのはすごいなと感じました。

 双方は直列回路と並列回路くらい違うような気がしているので、『切り替え』のスイッチがとても深いところにある人なんだなあって思いました。

佐渡島 もの作りは近寄った視点、経営はひいた視点が必要で、その切り替えはかなり苦労しています。

三木 そして去年の11月くらいかな? 僕が本(『面白ければなんでもあり』(KADOKAWA))を出すことになって、Amazonのぺージが登録されたときに記載情報を確認していると、「あなたにはこの本がおすすめです」のところに『ぼくらの仮説が世界をつくる』が出てて、「あれ?」って思って(笑)。

佐渡島 セットでね。僕もAmazonからおすすめされていました(笑)。

三木 それで僕は知りました。

佐渡島 なるほど(笑)。僕も『面白ければなんでもあり』を読んで、僕の本も、かなり編集側に寄せた内容も検討していたことを思い出しました。でもそうしたら相当似ていたなぁと思って。

三木 佐渡島さんの本はなんというかオシャレなんですよ。ぜんぜん僕には作れない(笑)。あと、本の装丁も真っ白で統一されていてピュアな感じがして、すごい良かったです。あの本に登場される三田先生とのパートナーシップも良い感じですよね。

佐渡島 この前、三田さんと打ち合わせしていて、改めてすごいなぁと思いました。世間の反応に敏感で、ストーリーを変えることをためらわないんです。その一方、ぶれないところはぶれない。

三木 そうなんですね。

佐渡島 『ドラゴン桜』も「東大の理1へ行け!」っていう話で読者が反応して、これは学園ものじゃなくて勉強もので行けるな、と。それで受験の情報をバーッと出すぞ! みたいな感じだったんですよね。

三木 なるほど。じゃあ『ドラゴン桜』は、たとえるなら『ROOKIES(ルーキーズ)』(ジャンプコミックス)のような、学園モノ路線もあったと……。

佐渡島 そうなんです。当初は、そういうノリだったんですよ。で、学園モノのケンカっぽいストーリーが上がってきたときに、そのときの先輩と僕で、三田さんに「いや、ちょっとこういう感じよりも、『東大行くなら理1を狙え!』とか、そういう情報入れませんか?」って言って、一回書き直してもらったら、その回の読者の反応がよくて。そしたら三田さんから「東大時代の友だちに会ってきて勉強法聞いてこい!」って言われて(笑)。

 今、ヤンマガで連載している『アルキメデスの大戦』では艦隊の絵を出したら、世間の反応が熱かったそうなんです。それで、艦隊についての情報をもっと出すぞ! ってなって、艦隊について詳しく調べ出したりしたそうです。この作品は、コルクが関わっていないんですが。

三木 でもだって、『アルキメデスの大戦』って、はじまったばかりですよね!?(笑)

佐渡島 そう(笑)。

三木 早いですねぇ(笑)。へー。だったら『インベスターZ』(モーニングKC)第一話のアンケートに「麻雀シーン期待しています!」っていっぱい書けばよかった!

佐渡島 (笑)

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三木 いや、麻雀スゴイ期待してたんですよ。『インベスターZ』が最初に連載告知をされたとき、主人公が麻雀をしていたんですよね。それで、「あ、これ来た。三田先生の麻雀漫画、スゲー読みたい!」って思ったら麻雀の話は1話で終わった(笑)。それで投資のほうにストーリーが進んでいって……残念でしたが、モーニング読者へは絶対にそっちのほうが良いとは思いました。

佐渡島 そうですね。「麻雀漫画を三田さん始めるのか!」って反応はたくさん来ました。それは、描きたいことと違ったので、、さすがに反応しなかったですけどね。でも、そういう反応で麻雀のシーンは増えたりするのが、三田さんのすごいところです。

三木 いやいや、『インベスターZ』は今の路線のほうが結果的に良いと思いますからそのままで是非……!