「ロジックツリーを完成させることが目的ではないし、ツリーに模範解答はない。自分の壁にぶち当たるまで試行錯誤を続けよう」

こんなことを研修で話すと、受講者たちはみんな少し困ったような顔をする。「あとは努力次第。がんばれ!」というきわめて精神論的なメッセージだと受け取られるからだろう。

しかし、そんなことはないので安心してほしい。論理思考によって本当に発想が広がったのかどうかについては、「明確な判断基準」があるからだ。

結局は「ショーモナイ負け」の少ない人が最後まで生き残る
 

「どこかに消えた公園のハト」再び!

前々回の連載で「公園のハトが減っている原因」の話をした。

【第9回】
結局「ハト」はどこに消えた?
答えが欲しけりゃ“論理×直感”だ!!

以下はこの記事を読んでいなくても理解できる話なので、安心して読み進めていただきたい(もちろん、興味のある人は以前の分もぜひお読みください)。

ある公園のハトの数が減っている場合、その原因仮説として直感的に次のようなアイデアが浮かんだとしよう。

◎ 何者かがハトを捕獲して連れ去っているのではないか?
◎ 致死性の高いハト特有の伝染病が流行しているのではないか?
◎ 何らかの人工物で事故死するハトが増えているのではないか?

こうした仮説だけしか見えていないときには、下図の部分に「見えない壁」が入っている。つまり、「減少する割合が増えた」という前提の下でしか考えていないと気づいていないのである。

このとき、もう一度根本に立ち返って、「公園のハトが減っている」を検討したとき、これが次の2つに分解できると気づいたとする。

◎ 増加するハトの割合が減っている
◎ 減少するハトの割合が増えている

この分け方に気づいた直後から、あなたは「増加する割合が減っている」についても、さらなる分解を始めるだろう。これが「発想の範囲が広がる」ということである。

つまり、「優れたMECEな分け方」があるとすれば、それはこうした「無意識の思い込み」が見つかるような分け方である。

※「MECE」についてはこちら
【第10回】
知ってますか? マッキンゼーが
「MECE」を重視する本当の理由

逆に、「ハトの死亡数が増えている」の原因として、

◎ 殺される数が増えている
◎ 事故死する数が増えている
◎ 病死する数が増えている
◎ 自然死する数が増えている

というのも、同じツリーの下半分を分解していく過程で出てくる項目だが、こちらは「壁」に囲まれた範囲内で分解を進めているにすぎない。その意味で、発想を広げるのにはあまり寄与していないと言えるだろう。

つまり、有意義なロジックツリーとは、「自分がどこについて考えていて、どこについて考えていなかったかがわかる」ようなものだということだ。
「あ!! こっち側を見落としていたぞ。危ないところだった……」という気づきが得られるかどうかが肝心なのである。

「発想が広がったかどうか」を判定する唯一の基準

「ツリーを完成させることが目的ではない。『見えない壁』がどこに入っているかは一人ひとり異なるので、分解の仕方に模範解答はない。自分の壁にぶち当たるまで試行錯誤を続けよう」

こんなことを研修で話すと、受講者達はみんな少し困ったような顔をする。
つまるところ、「あとはみんなの努力次第。できるだけがんばれ!」というきわめて精神論的なメッセージだと受け取られるからだろう。

しかし、そんなことはないので安心してほしい。論理思考によって本当に発想が広がったのかどうかについては、明確な判断基準があるからだ。

MECEに考えることに成功しているかどうか、その基準になるのは、当然のことながら、細かく枝分かれした見事なツリーをつくれたかどうかではない。

では、何がカギになるのか?
「直感だけで発想したときよりも、発想が広がっているか?」――これに尽きる。

直感的にパッと思いついたアイデアが3個あって、そのあとツリーをつくりながらMECEに分解して考えた結果、アイデアが7個になったとしよう。

これが「直感よりも発想が広がった」ということである。発想の幅が広がっているということは、「しまった」が起きる可能性が減ったことにほかならないのだから、この場合はやはり論理的に考えた意味はあったのである。

しかし、こんな疑問を抱く人もいるかもしれない。

「いくら発想の範囲を広げて、たくさんのアイデアを引き出せたとしても、結局のところ、私たちはどれか1つに絞り込んで実行しなければならないですよね? そのときに、イマイチなアイデアを選んでしまうかもしれない。どうすれば『思いついた中ではこれが最善のアイデアだ』と判断できるのでしょうか?」

もっともな疑問だ。よいアイデアを発想するためには、発想を広げる「拡散」のプロセスだけでなく、その中からどれか1つに絞り込む「収束」が不可欠である。

だが、これについては書籍『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』をご覧いただくことにしよう。

直感よりもアイデアが広がれば成功

僕の研修でも、演習問題に取り組む際には、まずグループ単位で最初にブレーンストーミングをする。
受講者にアイデアを出してもらうときは、順序立てて考えずに、とにかく各メンバーが直感的に思いついたアイデアを出していく。

そのあと、MECEのルールを意識しながらツリーをつくってもらう。チームによって完成されるツリーはバラバラである。同じ事象に対しても、無数の分解の仕方がある。

大切なのは、そうした論理思考の結果として出てきたアイデアが「これはとても発想できなかった」というレベルのものではないということだ。
「さっきはたまたま思いつかなかったけど、たしかにこんなアイデアもありだな」というぐらいのアイデアで十分だ。

それこそが、頭の中の潜在的アイデアをより多く引き出し、「しまった」を減らすということだからである。

「でも、本当に大したアイデアじゃないんですよ?」

などと言う人がいる。しかし、よく考えてみてほしい。
ビジネスにおけるほとんどの敗北は、その「大したことがないアイデア」を引き出せなかったせいで起きている
そして、ほとんどの勝利は、たまたま競合が思いつけなかった「ちょっとしたアイデア」を引き出せた結果なのだ。

(第12回に続く)