就労者の意識の多様化や社会のデジタル化の潮流を受けて、将来の働き方(Future of Work)について論じる機会や、働き方の変革に対する試行的な取り組みが盛んとなってきている。本稿では、「会社」という枠組みや「就労・雇用」という概念の再定義を含めて論点を整理する。

将来の働き方を模索する
さまざまな取り組み

 大手製薬業のロート製薬が、2016年4月から国内の正社員約1500人を対象に、他社やNPO法人などで働く兼業(副職)を認める「社外チャレンジワーク」と名付けた制度を施行することを発表し話題となった。就業先を届け出れば、平日の終業後や土日祝日に他社で働き、収入を得ることを認めるというもので、会社の枠を超えて培った技能や人脈を持ち帰ることで、同社のダイバーシティ(多様性)を深める狙いがあるという。

 日産自動車では、ワークライフバランスの向上に向けた各種制度に加えて、2015年から従業員一人ひとりの意欲と時間を大事にし、1日8時間勤務を意識して働き方を見直す「Happy8」プログラムという働き方改革を推進している。また、埼玉県では、女性の活躍で地域経済を活性化する「埼玉版ウーマノミクスプロジェクト」を進めており、その一環として「多様な働き方実践企業」を認定するなどしている。リクルートホールディングスでは、働き方の選択肢を増やすことが個人の能力の発揮につながるとの考えから、全従業員をリモートワークの対象者として位置づけている。

 大手企業の多くが何らかの制度を導入しており、それらはフレックスタイム、ワーク・シェアリング、時短、育休、在宅勤務など多岐にわたる。少子高齢化による労働力人口の減少は確実に進行しており、将来の働き方を模索するさまざまな取り組みが試みられている。

 グーグルのようなイノベーティブな企業が、従来の企業とは異なる新しい働き方やマネジメントを実践しているという話はこれまでも多数のメディアで取り上げられてきた。それは、単にオフィスにビリヤード台を設置するとか、無償でランチを提供するといった話題性のある福利厚生面での人気取りの施策が本質ではない。「スマート・クリエイティブ」と呼ばれる優秀な知的労働者を惹きつけ、彼らが最良の環境で最高のパフォーマンスを発揮することを目指した複合的な取り組みといえる。

多層化する論点

 将来の働き方というと、人事部門が主導する在宅勤務やフレックスタイムなどの就労形態に関わる制度面の取り組みや、IT部門が推進するモバイルワークや遠隔会議などの狭義のワークスタイル革新に関する取り組みが想起されがちではないだろうか。しかし、働き方を掘り下げていくと、労働と報酬の関係、「雇用」という概念、「会社」という枠組みといった、より根源的な物事の定義に立ち返らなければならない場面に遭遇する。議論すべき点は多岐にわたり、多層構造になっているといえる【図1】。多層化する議論の各層における従来の考え方と今後重要となる論点を以下に述べる。

「働き方を変える」を、本当に実施するために必要なこと