農業には、争点がない――。

 自民党、民主党が現在掲げる農業政策を眺めていてがっくりくるのは、その類似点であり、高米価と減反を柱とする戦後農政の問題を肯定している点である。与党の自民党だけならまだしも、政権交代を目指す民主党までもが、負の遺産を踏襲している点には興ざめするほかない。

 麻生太郎首相は解散・総選挙を先送りしたが、仮に実施されて、民主党が政権を奪取したところで、同党の公約破り以外に、農政の転換は期待できないというのだからお寒い状況である。

 ただ、その民主党もかつては、筆者の改革案に近いものを採用しようとしていた時期があった。

 2001年の参議院選挙における選挙公約を読むと、「事実上強制となっている米の減反については選択制とし(中略)新たな所得政策の対象を農産物自由化の影響を最も大きく受ける専業的農家」とし、03年のマニフェストでは、「食料の安定生産・安定供給を担う農業経営体を対象に、直接支援・直接支払制度を導入します」としていたのである。

 筆者は本連載で繰り返し、戦後農政の根幹とも言える高米価政策と減反政策を廃止し、農家らしい農家である主業農家への直接支払い(補助金)に切り替えるべきと主張してきた。

 減反を段階的に廃止して米価を需給が均衡する水準まで下げれば、コストの高い副業農家は耕作を中止し、農地を貸し出すようになる。

 そこで、一定規模以上の主業農家に耕作面積に応じた直接支払いを交付し、地代支払能力を補強すれば、農地は主業農家に集まり、規模は拡大しコストは下がる。

 市町村役場や農協の職員等サラリーマンとしての所得の比重が高く土日しか農業に従事しないパートタイム(兼業)農家に補償する必要はない。これらの農家も主業農家に農地を貸せば現在の10万円程度の農業所得を上回る地代収入を得ることができるし、主業農家の規模が拡大してコストが下がれば受け取る地代もさらに増加する。いまや小農は兼業農家であって富農であり、サラリーマン所得のない主業農家が貧農なのだ。農薬や化学肥料を使わないようにしているのも、雑草採りに週末しか割けない兼業農家ではなく主業農家だ。