「おたくの今度の多棟現場、一戸あたりどれくらいで売り出すの?」
「うちの現場に近いあの物件、もうこれ以上値下げしないよね?」
最近、東京都の城西・城北エリアで、建売り一戸建て住宅を販売する住宅メーカーの営業マンは、連日「情報収集」に明け暮れているという。
「物件の見物客が少ないウィークデーは、専ら競合他社の値引き情報を収集することが仕事になってしまった」と、営業マンはうなだれる。
彼らが切羽詰っている理由は、「自社が手がける新築建売り物件の値下がりが止まらない」ことだ。春先から客足が目に見えて鈍り始め、夏に入ると閑古鳥が鳴き始めた。「このままでは、この地域での今期の売り上げ目標は大幅未達」(営業マン)という。
そのため、完成したばかりの新築物件まで大幅値引きして処分するしかない状況に追い込まれている。皆がこのような状況だから、競合他社との値引き・情報合戦が日に日に熱を帯びているのだ。
いったい、何が起きているのか?
中野区、杉並区、武蔵野市の一部を含む「城西エリア」や練馬区、板橋区などの「城北エリア」は、言わずと知れた人気住宅街。「最近、新築物件が安くなった」とファミリー世帯に評判だ。
これらの地域では、1990年代初頭のバブル崩壊後も、住宅需要が大きく衰えることはなかった。その理由は、一般のサラリーマン家庭でも、背伸びすれば何とか手が届きそうな「値ごろ感」のある優良物件が多いからだ。
もちろん、千葉県、埼玉県、神奈川県などのベッドタウンと比べれば、価格水準はかなり高い。だが、人気路線の沿線を除けば、多くの物件は超セレブ地区である目黒区、大田区、世田谷区などの「城南エリア」と比べて一段、安くなっている。
何より、都心から近いわりに自然が多く、子供や高齢者への手厚い助成が受けられる自治体も多いという環境面のメリットは大きい。都内に住みたいファミリー層にとっては、まさに最適のエリアと言えるだろう。
そのため、「いくら物件が安くても歓楽街や古い住宅が多くて環境が悪い」と言われる城東エリア(下町周辺の都区部)や、「さすがに高過ぎて手が出ない」という城南エリアからは、城西・城北エリアへ流れ込んでくるファミリー層が後を絶たない。