
金利環境の変化や新NISAを追い風に、メガバンクは個人金融資産の獲得競争を加速させている。その中で新たに注目を浴びているのが、資産数千万~数億円を保有する現役世代、いわゆる“空白地帯”だ。三井住友フィナンシャルグループも新サービスで本格参戦する空白地帯とは何か。特集『銀行・証券・信託 リテール営業の新序列』の#8では、みずほ証券と楽天証券が共同出資する金融商品仲介会社、MiRaIウェルス・パートナーズで、昨年4月からこの領域に挑み続ける中核メンバーの一人が、その内情を明かした。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
資産数千万~数億円の現役世代
空白地帯の収益化は至難の業
金利環境の変化を受け、メガバンクはリテール戦略を一段と強化している。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は総合金融サービス「Olive(オリーブ)」の展開領域を拡大し、三菱UFJフィナンシャル・グループは新ブランド「エムット」を前面に、自前路線で存在感を高めている。
一方のみずほフィナンシャルグループ(FG)。木原正裕社長は「これまで構造改革を優先した結果、リテールへの投資は後回しになってしまった。低金利環境でも果敢にリテールへ投資したSMBC(三井住友銀行)さんはあっぱれだ」とライバルに後れを取る現状を認めつつ、「みずほ銀行の前身である第一勧業銀行と富士銀行は、かつてリテール分野でトップを争った都市銀行。ここでもう1回、リテールで旗を立てる」と“反転攻勢”を誓う。
実際、みずほFGは、楽天グループやソフトバンクなどとの提携で顧客との接点を広げ、他社との協業を武器に顧客獲得を狙う戦略を本格化させている。その戦略の要が、みずほ証券と楽天証券が共同出資して設立した資産運用会社のMiRaIウェルス・パートナーズだ。
2024年4月に事業を開始し、所属するアドバイザー5人はいずれもみずほ証券出身でCFP(日本FP協会認定)資格を保有。運用だけでなく、税務・不動産・相続と横断的に対応する。
同社の主なターゲットは、資産2000万~数億円の40~60代だ。富裕層特化の対面証券でも、若年層向けのインターネット証券でも拾い切れない、いわば“空白地帯”とされる。SMFGもこの顧客層を「デジタル富裕層」と位置付け、SBIホールディングスと組んで26年春に新サービス「Olive Infinite」を投入する予定だ。
各社がこの層を狙うのは、単に未開拓市場だからではない。40~50代の顧客を囲い込んでおけば、10~20年後には数億円規模の資産を築く60~70代として丸ごと取り込める、将来性の高い市場だからだ。
しかし、空白地帯の攻略は容易ではない。SMFGが本格参入する1年以上前からゼロベースで挑んできたというMiRaIの進藤正毅社長は「金融機関側の都合を優先した手法は通用しない。顧客に寄り添い続ける姿勢と、中立性・専門性が欠ければ信頼は得られない」と語る。みずほ証券協業事業部の春日英晴ディレクターも「40~50代は、事前に相当多くの情報を自ら収集する人が多い。アドバイザーを大量に投入してマネタイズできる層ではない」と指摘する。
各社が囲い込みを狙いながらも攻略に苦戦する、空白地帯は一体どんな戦線なのか。MiRaI設立当初から最前線で顧客対応するアドバイザーが取材に応じ、外部に語られることのない現場の内情を明かした。
次ページでは、顧客から潜在ニーズを引き出すヒアリング術やウェブ面談の活用法など生の知見と共に、空白地帯の“リアル”を余すことなく伝える。