上海で筆者が目にした光景は、極端な例ではあるがあまりに衝撃的だった。

上海の地下鉄車内では、皆がiPhoneを持っていた

 夕刻の上海地下鉄2号線の車内で、目の前にいたサラリーマンが、OLが、カジュアルな服を着た若者が、皆iPhoneをいじっていたのだ。筆者は思わず、iPhoneをいじる目の前の5人の写真を撮ってしまった。横にいた若者に怪訝な顔つきで見つめられ、その冷たい視線に筆者がデジカメをポケットにしまうや、その若者までもがiPhoneを取り出した。

 東京の車内なら、1人2人くらいPSPやニンテンドーDSで遊ぶ光景こそ目にしても、ラッシュの狭い視界の中で、さすがに6人もiPhoneを触る光景に遭遇することはありえない。ちなみに地下鉄2号線は昔からある上海の大動脈で、1号線2号線は著名な地域を通る、日本で言えば大阪地下鉄御堂筋線のような存在だ。

金持ちは金持ちらしく
という中国流TPO

 上海は来年に迫る上海万博を目指して地下鉄新路線を続々と開業させている。近年新規開業した地下鉄路線のひとつ8号線は、繁華街からはそれて走り、下町と新興住宅地を結ぶため、乗車する人々の層も他とは違った。

iPhoneもどきなど、ニセモノを扱う店

 彼らはノーブランドの激安ケータイを持っていて、初めて手にするケータイなのか、笑みを浮かべながらいろいろ試しているようだ。地下鉄8号線の沿線の、かつての電気街だった頃の秋葉原を彷彿させる地域では、見た目がそっくりで挙動が似ても似つかぬiPhoneもどきが販売されている。客の多くは、遠方からやってきた出稼ぎ労働者だ。値段はiPhoneもどきが1万2000円ほど、それ以外の偽物ケータイは5000円くらいから買える。

 地域格差の激しい中国の中でも、上海は平均所得が最も高い。中国国家統計局の4月の発表によれば、中国の都市部での年間平均収入は2万9229元(約44万円。1元=15円で計算)で、月収で換算すると2435元(約3万6500円)となる。一方、上海市統計局の統計によると、上海の年間平均収入は3万9502元(約59万円)、月収にして3290元(約4万9000円)となる。

 中国流TPOというのだろうか、金持ちは金持ち相応のモノを持ち、服を着こなし金持ちを演出しなくてはならないという暗黙のルールがあると、長年中国に身をおいていると感じる。たとえばいい給料をもらっているのなら、白黒液晶のケータイを持ち歩いたり、ケータイで写真を撮るなど貧乏人臭くてとんでもない、という話である。