メーカーの製品発表会は数多くあれど、最近のアップルの会議ほど人々の注目を集めているものはないだろう。1月恒例のマックワールド、および6月のアップル開発者会議(WWDC)と、開かれるたびに驚くような新製品や新サービスが発表される。今や数ヵ月前から「今度はどんな新製品か」とさまざまなうわさが飛び交うほどだ。

6月9日のWWDCでのスティーブ・ジョブズの基調講演もしかり。発表された製品自体は、昨年発売されたiPhoneのセカンド・バージョンだが、高速通信3G対応や企業向け機能を搭載し、さらに大幅な値下げを断行するなど、ファースト・バージョンから格段と進化した。

 興味深いのは、そうした発表の中に必ず毎回、アップルが企業として目指す新しいビジネスの方向が見て取れることである。

 新しいiPhoneをざっとおさらいすると、次のようになる。

ひとつは企業向け機能の搭載だ。iPhoneは個人ユーザーには人気があったが、企業内で広く用いられているスケジュール管理やメール機能を備えたグループウェア、エクスチェンジ・サーバーには未対応だった。今回の発表では、パソコンと同様にiPhoneがクライアントとなって、出先からでも安全に企業内のデータにアクセスできることをアピール。銀行、航空会社、製薬会社など大手企業が現在ベータ版をテスト中だとした。マイクロソフトやHP、RIM社のブラックベリーなどが占有する企業ユーザー市場に食い込むのが狙いだ。

 個人用にも同様にMobileMeというサービスを有料で開始し、外出先からさまざまなデータのシンクロを可能にする。当初よりiPhoneはフルブラウザを搭載し、これがまるで小さなコンピュータを持ち歩くような便利さだと人気を呼んでいたが、MobileMeによって、さらにその感覚が増すことになるわけだ。

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売上高は前年比40%ペースで急増中

 そもそもiPhoneが画期的とされたのは、スマートフォンとiPod機能の合体と、タッチスクリーンによる操作性だった。ハードウェア上のボタンをたったひとつにし、ほとんどの操作はスクリーン上の指の動きで行われる。SF映画さながらのジェスチャーが人気を呼んだが、このデザインの背景には話題性以上のものが隠されている。

 それは、このiPhoneという機器がダウンロードするソフトウェアによってはいかようにも変化するデバイスとなり得るということである。いったんiPhoneの持ち主になれば、ソフトウェアを次々とアップグレードし、サードパーティー開発によるアプリケーションも一元化して提供することで、デバイスもユーザーも共に進化を遂げる。つまり、iPhoneはアップルがユーザーを囲い込むためのツールなのだ。