今、アメリカのIT業界では、シスコ・システムズに注目が集まっている。

 シスコといえば、インターネットのルーターやスイッチ機器の開発会社。ITバブルを生き延びたものの、ここ7、8年は低姿勢を保ち、世間を賑わす大きなニュースはなかった。ところが最近、ひょっとするとスマートフォンを打ち出すのではないか、コンシューマ向け製品開発・メーカーに転身するのではないかという噂が絶えないのだ。

  シスコの新たな動向がはっきりとした形を見せたのは今年3月、同社がピュア・デジタル社を6億ドルで買収すると発表してからだ。

 ピュア・デジタルは、超人気の格安ビデオ・カメラ「フリップ」の開発会社である。100~300ドルという安い価格帯ながら高画質のビデオ撮影が可能なフリップは、カメラ搭載のUSBジャックを直接コンピュータに接続することで、撮った映像をインターネットにいきなりアップロードすることができる。

 フリップは、ユーチューブやSNS(ソーシャルネットワーキング)の大流行で人気を集め、2007年5月に発売されてから200万台以上を軽々と売り上げてきた。その開発元の買収で、シスコは、ビデオを中心としたホーム・ネットワークどころか、大容量のビジュアル・ネットワーク市場の制覇を狙っていることが明らかになったのだ。

 ホーム・ネットワークについては、シスコは実は、数年前から布石を打ってきた。家庭用ルーターのメーカー、リンクシスの買収、セットトップ・ボックス開発会社のサイエンティフィック・アトランタの買収は、いずれも2005年のことだ。

 今年初頭のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)でも、ホーム・ネットワーク用の新しいシステムを発表したほか、エンターテインメント会社やメディア会社が消費者にインタラクティブなコンテンツ配信をする際に利用できる、新しいソフトウェア・プラットフォームを発表した。ユーチューブだけでなく、インターネット・テレビ「Hulu」の今の人気などを考えると、これはあながち間違った動きではなさそうだ。

スマートフォンの古参
パーム買収もあり得る?

 企業向けのビデオ、映像配信の面でも、いくつか顕著な動きがある。そのひとつは、インターネット・ベースの会議システムを開発したウェブエックスの買収である。ブラウザーを立ち上げてアクセスするだけで、最大3000人の参加者をまとめ上げ、さらにドキュメントを共有して会議を進めることのできるウェブエックスは、大企業内だけでなく、中小企業などにも人気だ。シスコは同社の買収に32億ドルもの大金を投じた。

 独自に開発したビデオ会議システム、テレプレゼンスもある。これは、複数の遠隔地から会議に参加する人々が実物大に、まるでテーブルの向こうに座っているかのように見えるインターネット・ベースの会議室、および通信システムで、4月末までの直近の四半期では前年に比べて70%以上も売り上げを伸ばしたという。不況で出張費を削る企業が多い中、P&Gも最近75ユニットを導入した。