チベット料理を食べながら感じるのは、中国料理でもネパール料理、インド料理でもない「独特な文化と歴史」が伝わってくることである。チベット自治区には独自の言語、宗教、生活習慣があるが、料理も例外ではない。代表料理は「モモ」。形は餃子に似ているが、チベット高原に住む毛が長い牛科のヤクやマトンの肉が主に使われている。素材を生かし、肉の味やにおいがそのまま感じられる。肉と乳製品を主食にしているチベット人には、このヤクのバターなども欠かせない。

 日本にあるチベット料理店で食事をすると、純粋なチベット料理だけを提供している店は京都の店以外はほとんどない。高原での食事は品数が少なく調達も難しいため、文明国である日本に受け入れられる料理自体が少ないのだ。多くが、ネパール料理と一緒に供され、なかには中華料理とのミックスもある。それだけ隣国であるネパールや中国との交流も根強いことがわかる。

 また日本からチベットへの直行便はなく、中国の四川省の成都などを経由しなければならない。日本人の観光客も増えているチベット鉄道への旅行も、中国を通り訪問する人が多い。観光産業が主な産業となっているチベットでは、今回の問題で観光客が激減したことは、大変痛手となっている。グローバル化が進む中、チベットにとっては中国やネパールなどとの隣国との交流が不可欠なのである。

 「ネパールやインド、中国に囲まれているチベット料理は、最近は中国との交流が盛んになったことで米類などが入手できるようになり多少贅沢にはなった。しかし愛国心、統一国家権力の強い中国に支配される感触は不快である。これを機会に世界の注目が集まればいいと思う」

 チベット料理店の人はいうが、ボイコット運動には参加するのは筋ではないと答えた。

中国にとっては
他国の意見を聞く=面子を潰される

 北京五輪を直前に控え、チベット自治区、ダライ・ラマ14世との対話を求めて、世界中で中国批判が過熱している。

 ダライ・ラマ14世がいう「チベット文化の虐殺」は、中国による弾圧であり、共産主義の象徴である。しかしそれが人権問題と独立問題のことであるならば、中国の国内問題としてとどまることになる。

 ダライ・ラマは、チベット自治区の独立ではなく対話を要請しているという。独立に対しては自分の意図するところではないといいながらも、チベット側の聖火リレー阻止運動の動きを抑えようとしていない。