
宗教学者の島田裕巳によれば、宗教法人への非課税は、日本でも西欧でも普遍の原則なのだという。文化庁統計によれば日本には約18万の宗教法人が存在するが、伝統ある仏教教団はもちろん、創価学会や旧統一教会なども莫大な金額を動かしている。これに首をかしげる経済学者・水野和夫の問いに、島田はどう答えるのか。※本稿は、水野和夫、島田裕巳『世界経済史講義』(ちくま新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
日本における永続性は
「家」と「法人」で保証
島田 2023年、日本で最大の宗教法人である創価学会の第3代の会長だった池田大作さんが95歳で亡くなった。池田さんが亡くなっても、創価学会という宗教法人がなくなってしまうことはないわけですね。
そこに法人のメリットがある。永続性を持つことは大きいと思うんですけれど、法人は日本だと明治以降、近代化の中で出てくるわけで、それ以前に権利能力を持っていたのは「家」なのではないかと思います。
貴族を意味する公家は公の家と書くし、武士だったら武家という形で、家が非常に重要で、多くの土地を所有して、それを活用して利益を上げてきた。そこら辺の構造が日本と中国では若干違っていて、中国では科挙の制度があって、それに受からないと官僚になれない。この道は全員に開かれていて、誰でも受験できた。
現実的には、勉強は非常に大変で、家庭教師もつけなければいけないし、時間もかかるので、お金のある家しか受験できなかったという面はありますが、それでも、非常に優秀な庶民家庭の生まれの人が科挙に合格するようなこともあった。日本は、中国からいろいろな制度を取り入れたにもかかわらず、科挙は採り入れなかった。
日本では、上級官僚には適用されないのですが、下級官僚になるための試験はありました。ところが、高級官僚になるには、特定の家に生まれることが必須の条件で、有名なのは藤原氏ですね。藤原氏でなければ当時の最高のポジションである摂政・関白になることができないようになった。そういう形で、家を単位として社会が動いていた。
庶民の場合にも、農家という形でやはり家が重要で、家を単位として田を所有し、それを代々受け継いでいった。
昔は相続税などないですし、今でも農地に関しては相続税がかからないので、家を単位にして永続性が保証されてきた。土地に関しては、神社仏閣が非常に大きな役割を果たしてきた。
神社仏閣もキリスト教会も
宗教的組織には莫大な土地
島田 ヨーロッパではキリスト教の教会がそれに当たるわけで、こういう宗教的な組織にはどこでも莫大な土地が寄進され、それを活用する。日本の場合には、比叡山に典型的に見られるように僧兵という軍事力まで備えていた。
神社仏閣が持っている土地は広大なもので、今の奈良県、昔の大和の国は、全部が興福寺の土地でした。朝廷は、大和国に国司を置くことさえできなかった。税金は興福寺が徴収して、それを国に差し出す形を取っていた。