ITの新潮流として「クラウドコンピューティング」が注目されている。だが、その実像は、壮大なヴィジョンを語ることで顧客を引きつけたいIT企業間の駆け引きもあり、文字通りクラウド(雲)の中に隠れて把握し難い。そうした中、「Azure(アジュール)」(青空、曇りのないといった意味)という基盤技術を引っさげて参戦してきたのがマイクロソフトだ。グーグル、アマゾン、セールスフォースに比べ世間での印象は後発だが、開発者向けのプラットフォーム提供から始めるという手堅い戦略は、急がば回れで、クラウド時代制覇への着実な本道となるかもしれない。米本社でアジュール開発を率いるアミターブ・スリバスタバ上級副社長に、戦略の狙いと今後の展開を聞いた。

米マイクロソフト シニア・バイス・プレジデント、アミターブ・スリバスタバ(Amitabh Srivastava)

―マイクロソフトは、昨年10月、クラウドコンピューティングのための基盤技術「ウィンドウズ・アジュール」を発表した。クラウドには、企業向けにネットを介して個別のアプリケーションソフトを提供したり、あるいは消費者向けに同じくネットを介して文書作成や表計算などのサービスを提供したりなど様々な領域があるが、なぜ開発者向けから手掛けようと考えたのか。

 クラウドコンピューティングは今やすっかり流行の言葉となっているが、本音ではまだ誰にも(その行方は)見えていないはずだ。今後どのようなアプリケーションがクラウドコンピューティングの特性を生かした独自のものとして開発されていくのか、見極めにはまだまだ時間がかかる。

 ただ、だからこそ、マイクロソフトは開発者向けにこだわった。総合的なプラットフォームを提供して、その上で開発者がクラウドコンピューティング用開発につきものの複雑な手順に悩まされることなく、迅速な次世代のアプリケーション開発に集中できるようにしたかった。そこから、ソーシャルネットワークのようなものが出てくるのか、あるいはまったく異なった分野のものが出てくるのかはまだわからないが、開発者にパワーを与えることこそが最もふさわしい戦略だと思っている。

―マイクロソフトは、セールスフォースなどのライバルが好んで用いているSaaS(サービスとしてのソフトウェア)ではなく、「ソフトウェア・プラス・サービス」というコンセプトを強調している。クラウドに移行しない部分もあるという前提なのか。

 そうではない。要は開発者やユーザーに選択肢を与えることにこだわった。クラウドコンピューティングと聞いて、「ああ、ソフトをインターネットに移動させればいいんだ」と、いとも簡単に考える人は多いが、実際にはそれほど単純ではない。