松澤 健著 ダイヤモンド社刊 2000円(税別) |
JR東日本で電車が発車する際の合図として、それまでのベルに代わって初めてメロディが採用されたのは1989年、新宿駅と渋谷駅だったといいます。その後、主要路線を中心にメロディ化が広まっていき、今日現在ではJR東日本東京近郊のほとんどの駅でメロディが使用されています。あまり知られていないのですが、駅によって曲が異なるばかりでなく、同じ駅でもホームによって流れる曲が異なる場合がほとんどです。また、多くの曲には曲名がつけられています。
私にとって思い入れの深い曲は「せせらぎ」「雲を友として」の2曲です。この2曲は1990年代初頭から山手線などの多くの駅で使用されていたので、多くの方は耳にしたことがある曲です。当時小学生だった私も、親に連れられて都内に出向いた時に耳にしていたことを思い出します。私が発車メロディに魅力を感じた理由のひとつは、ノスタルジックなものであるということです。
鉄道の発車メロディですから、無意識とはいえ毎日数百万人が耳にしています。改めて聴いてみると、人それぞれ、通勤通学風景や、都内に住んでいた頃の思い出、その他色々な思いが頭の中によぎると思います。かくいう私も、「雲を友として」という曲をネットサーフィン中に見かけたサイトで、公開していた録音ファイル(駅で生録して公開している人がいるのです)で聴いた時、何とも懐かしい気分に包まれて胸が熱くなったことを覚えています。
私が発車メロディに魅力を感じるもうひとつの理由は、人がリアルタイムで操作しているということです。あまり知られていないのですが、多くの駅の場合、電車が到着すると車掌さんがホームまで出ていき、備え付けのスイッチを操作してメロディを流します。曲が途中で切られたりするのもそのためです。メロディそのものは無機的なものなのに、人によるリアルタイム操作によって有機的なものになる。一度として同じ流れ方はしない。いわば毎回が車掌さんによる生演奏なのです。もし機会があったら最後尾の車両に乗って、車掌さんの動きを観察してみてください。これが、自動的に毎回必ず1コーラス分が流れるようなシステムだったら、これほど魅力を感じることはなかったと思います。