3月7日に閣議決定され、今国会に提出されることになった割賦販売法改正案。そこに記載されたある条文が、信販会社とクレジットカード会社を震撼させた。

 その条文とは第30条の2。文中には「包括支払可能見込額」という新しい文言が盛り込まれており、さらには「調査義務」まで課されていた。つまり、クレジットカードを新たに発行(更新も含まれる)したり、利用限度額を増額するなど“与信額”を決める際に、カード利用者の返済額が無理のない金額かどうかを調査するように義務づけるものだ。

 では何を調査するのか。条文にはあくまで例として書かれているのだが、「申込者の年収額、預貯金額、他の借り入れや支払い状況など、経済産業省が定める項目」が対象となっている。

 また、この支払い可能額とは、「自宅を売ったり担保に入れたりすることなく、生活維持費も確保したうえ、支払いに充てることができると見込まれる一年間当たりの金額」とされている。そこに経産省が定める一定の係数を掛けて「支払い可能見込み額」を算出し、その金額を超える場合にはカード発行や増額ができなくなる。

 「これでは“総量規制”ではないか」と信販、カード各社が色めき立ったのも無理はない。改正貸金業法とは違って、年収の3分の1までという明確な“線引き”はない。だが、支払い可能見込み額以上の与信を禁ずるということは、「事実上の総量規制」と懸念する関係者は多い。

 もっとも、経産省は「総量規制を行なう意図はない。適正な与信をするために、年収以外の調査を求めただけ」と言う。だが、今年の秋には示されると見込まれる「省令」の内容によっては、総量規制となる可能性が残されている。

 そもそも今回の法改正は、主に訪問販売業者などを取り締まる特定商取引法とセットで進められている。きっかけは2005年に埼玉県富士見市で起こった“次々販売”事件。複数の住宅リフォーム業者が、認知症の老姉妹に対して詐欺的なリフォーム工事を繰り返した揚げ句、信販会社に、自宅を競売にかけられることになったあの事件である。

 これら悪徳販売業者の陰には、個品割賦(ショッピングクレジット)で、過剰な与信契約を結ぶ信販会社などの存在があり、以前から問題視されていた。そのため特商法と割販法を併せて改正することで、訪問販売業者だけではなく、信販会社などへの規制も強化し、消費者保護を徹底しようというわけだ。このことになんら問題はない。だがそこに突然、クレジットカードへの規制も同時に盛り込まれていたので、業界はビックリ仰天となった。

 いまやカードの利用総額は35兆円に上る。そこに総量規制がかかれば、低迷する消費にさらにブレーキがかかる。貸金業法の改正時には、消費者保護強化のため総量規制が導入された。

 「今回もそうなる可能性はある。不況を引き起こしているのは金融商品取引法、改正建築基準法、改正貸金業法の三つ。頭文字を取って“3K不況”と呼んでいるが、割販法を入れて“4K不況”になりかねない」と、元経産省官僚の石川和男・東京財団研究員は警鐘を鳴らす。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 藤田章夫)