市場関係者が固唾をのんで見守っていたメリルリンチ、シティグループの2008年第1四半期決算。またも巨額のサブプライム損失を計上したが、主要国の株価は無風だった。FRB(米連邦準備制度理事会)がなりふり構わずベア・スターンズ救済に踏み切ったことで、市場に「大手金融機関が危機に瀕しても当局が救済する。金融システム不安が起きる可能性は小さくなった」(伴豊・新光証券チーフクレジットアナリスト)という安堵感が広がったためだ。

 だが、安心するのは早い。確かに、金融システム不安の噴出は遠のいたようでも、個々の金融機関の損失計上が収まったわけではないからだ。

 先日のG7で、金融機関は今後100日以内に複雑で流動性のない商品について情報開示をするよう求められた。流動性のない商品といえば、レベル3資産がまさに該当する。米系金融機関がSEC(米証券取引委員会)への報告書で開示しているもので、これこそが今後も燻り続ける火種だ。

 主要金融機関のレベル3の対総資産比率を見てみる。07年12月末でシティが6.1%(自己資本比率5.2%)、メリルが4.1%(同3.1%)、08年2月末でゴールドマン・サックスが8.1%(同3.6%)、モルガン・スタンレーが7.2%(同3.1%)。JPモルガン・チェースは決算発表の席上で「3月末の比率が約6%」(同7.6%)と発表した。自己資本比率を上回る金融機関もあり、その存在がいかに不気味かがわかる。

 さらに注視すべきはその中身だ。たとえば、ゴールドマン・サックスのレベル3は「商業用不動産ローンとその証券化商品が約15%を占める」(藤岡宏明・大和証券SMBC金融市場調査部次長)。

 8日に発表されたIMF(国際通貨基金)の試算では、商業用不動産の証券化商品は2割強の損失を抱えているとされたが、商業用不動産の下落はこれから本格化する。そのほか、レベル3にはレバレッジローンなども含まれており、「こちらも景気後退による延滞増加で価格下落が必至」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)と予測される。

 金融機関は損失計上の原因となる問題資産を抱えたままだ。「思わぬ巨額損失計上で市場が再び悲観に振れるリスクは残る」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)。株式市場混乱の恐れは消えてはいない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田孝洋)