総合商社の丸紅が、これまで光が当たることのなかった“地味エネルギー”の全国展開を狙っている。

 水路の高低差を活用した出力1000キロワット以下のミニ水力発電事業に本格参入するのだ。大手企業の全国展開は初。これまで採算面からあまり普及しなかったが、その実力は意外と侮れない。

 環境省は全国の小規模水力発電の能力について、2005年の11万キロワットから2020年には163万キロワット、2030年には302万キロワットへと大幅に拡大すると予測。未開発の中小規模の水力発電を合わせると、総出力は1200万キロワットを超えるとの試算もあり、拡大余地は十分ある。ある程度の水量があればどこにでも設置できるうえ、設置コストも数億円程度で済む。太陽光や風力と異なり発電量に大きな変動がないのも強みだ。

 2007年ごろから地方自治体や電力会社を中心に事業化する動きが広がったが、採算性が低く一般企業からの参入はまったくと言っていいほど進んでいなかった。

 その中にあって丸紅は、この分野で周到に準備を重ねてきた。

 「2000年に長野県伊那市の三峰川電力を買収、海外でも電力事業を拡大してノウハウを蓄積してきた」として小水力発電の運営に自信を見せる。

 丸紅は手始めに、三峰川電力の既存発電所の放水を再利用したミニ水力発電所を稼働させており、4月17日には完成式が行われたばかり。投資額は5億円程度と小さいながら、最大出力は480キロワットで、700世帯分の電力をまかなえる。5年以内に全国10ヵ所で新規建設や既存施設の買収を目指す。

 ネックだった採算性については、通常一基ずつオーダーメードで造る発電機に安価な汎用品を使用してコストダウンを実現した。

 日本には約1700の水力発電所があるが、ダムなどを利用する既存の大型発電所は環境型電源とはみなされない。これに対しミニ水力発電所はダム建設が不要で環境負荷も小さい。そのため新エネルギーに位置付けられており、参入企業には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から事業費の3分の1が補助金として拠出される。また太陽光発電と同様に、新エネルギーとして電力会社などに販売することも可能だ。

 丸紅は「莫大な利益を上げる事業には成りえないが、安定した利益を上げる目途はたった」として早期の収益化を狙う。

 かつて農村では、農業用水路などを使った自前の水力発電で電力をまかなうのが当たり前だった。「9電力体制」の確立による電力網の普及で廃れてしまったが、全国には放置されたままの用水路が多数残っている。そうした放置施設を有効活用して収益化できれば、“地味エネルギー”が新エネルギーの柱の一つに躍り出ることも不可能ではない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)