総合商社の伊藤忠商事と子ども靴大手のアキレスは「瞬足」のライセンス事業についてパートナーシップ契約を締結した。子ども靴の瞬足ブランドを、伊藤忠が衣類や文具、ゲームなどへ広げていく予定だ。
伊藤忠は複数あった競合企業の中から、約1年の交渉期間を経て独占契約を締結した。
いまや総合商社では唯一繊維部門を有し、「アルマーニ」などの高級ブランド、「コンバース」などのスポーツブランド、「とっとこハム太郎」などのキャラクタービジネスに精通している点が決め手となった。
その伊藤忠が瞬足ブランドにこだわった背景は二つ。
第一は瞬足の子どものあいだでの、並々ならぬ認知度とある“神話”だ。
瞬足は昨年の北京オリンピックで話題となった、着るだけで早く泳げる「魔法の水着」ならぬ、履くだけで駆けっこに勝てる「魔法の靴」として子どもたちのあいだでは、知らぬ者はいない有名ブランドだ。
100万足売れたらヒットの業界で、2003年の発売以来、累計発売数が2000万足に迫る“化け物”商品。毎年売上げを伸ばし、今年も500万足以上の発売を見込む。瞬足のターゲットとなる幼児~小学生が約1000万人しかいないので、単純計算では小学生の二人に一人が履いていることになる。もはやブームを超えた定番ブランドである。
瞬足のコンセプトは「コーナーで差をつけろ」。靴底のグリップを左右非対称にして、運動会など急カーブが続く左回りの駆けっこコースで、転びにくくしたのが特徴だ。
「魔法」の中身はいたって単純で、「履くだけでタイムが縮まるなど大袈裟に捉われるのも困る」とアキレス側も困惑気味。しかし、子どもにとっては自信が重要なようで、「履くだけで速くなる」「この靴なら転ばない」という心理的な効果は大きく、実際に「瞬足を履いたら運動会で勝てました」といったお礼の手紙がアキレスに何枚も届いている。もはや神話の域に達している瞬足ブランドを靴だけの世界で留めておくのはもったいないというわけだ。
もう一つ、伊藤忠が瞬足にこだわった理由は、「息の長いブランド」(岡藤正広・伊藤忠商事専務)であること。子ども相手のキャラクタービジネスは難しい。ブームとなるようなアニメキャラクターのヒット作は数年に一回しかない。それでいて、ブームはテレビ放映が終了すると途端に冷めてしまうなど浮き沈みが激しい不安定なビジネスだ。ハローキティやスヌーピーのような息の長いキャラクターの出現は稀である。
このように息の長いキャラクターは喉から手が出るほど欲しいアイテムである。実用品の世界で着実に築かれた瞬足は、大事に育てれば息が長いキャラクターになると読んでいるのだ。
既に20のアイテムで契約を交わしており、年内に瞬足のアウターウエアやソックス、ナイトウエア、自転車、ヘルメット、文具、カバン、弁当箱などが発売予定だ。小売りベースで、初年度は20億円、3年後に150億円の売上げを目指す。
「子ども靴コーナーへ行くと、棚の半分は瞬足だった。不況でも、まだまだアイディア一つでビジネスチャンスはあるんだと実感した」(岡藤専務)というように、子ども靴以外でも瞬足ブームは起きるのか。瞬足にあやかろうとブランドを導入した関係者は消費の起爆剤になることを祈るばかりだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)