5年後の業界地図2025-2030 序列・年収・就職・株価…#4Photo:Bloomberg/gettyimages

「高水準の年収」で難関大の学生からの就職人気も高い総合商社。だが、今期は三菱商事と三井物産が2桁減益計画となる一方で、伊藤忠商事が連続最高益を見込むなど序列に変化が起きつつある。3社の明暗を分けたものは何か。また、4位、5位の丸紅、住友商事の下克上はあるのか。特集『5年後の業界地図2025-2030 序列・年収・就職・株価…』の#4では意外なほど異なる事業内容や崩れ始めた株主還元と配当のバランスなど、トップアナリストが強みと弱みを徹底解説。今後数年間の総合商社の勢力図を解説する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)

実力値を切り上げる伊藤忠商事が
三菱商事、三井物産に差をつける

 三菱商事2033万円、三井物産1996万円――。この数字は2025年3月期の平均給与だ。

 6月に公表された有価証券報告書によると、25年3月期の平均給与は総合商社5社全てが平均年収1700万円超えとなった。もともと高水準の年収で知られる総合商社だが、5社平均の平均年収は21年3月期の1467万円から、25年3月期は1857万円にまで増加している。

 大学生の就職においても、総合商社の人気は高い。東証プライム市場に上場している企業だけで1600社以上もある中、多くの調査で総合商社5社全てがベスト10入りを果たしているのだ。

 わが世の春を謳歌している総合商社。死角はないのか。

 実は三菱商事や三井物産の利益ピークは23年3月期であり、26年3月期は共に3期連続で減益を見込んでいる。株価も24年の高値を抜けていない。

 だが、この点について悲観する声は小さい。23年3月期の数字は原油など資源価格高騰による「追い風参考値」だということを会社も市場も織り込んでいるからだ。

 UBS証券の五老晴信アナリストは「非資源分野が各社とも着実に成長している。市況や為替などのげたを除いた基礎収益部分は継続的な成長余地があるのではないか」と指摘する。

 トランプ関税が発表された直後は、関税強化による貿易量の落ち込みがマイナスになるという警戒もあった。だが、それについては杞憂に終わりそうだ。

 例えば、仮に米国から中国に輸出する穀物の量が減ったとしても、他の地域から中国に輸出する分が増えるケースがある。また、新車販売が減ったとしても、商社は中古車販売や中古車ローンを手掛けているケースがあるからだ。

「マイナスがあればプラスもあり、プラスの部分も従来、商社のビジネスの範疇だという安心感が出てきている」(五老氏)

 ただし、各社で業績の強弱は出てきており、セクター内の序列には異変が起こりつつある。

 業績が堅調なのは伊藤忠商事だ。「万年4位」を脱し、近年は三菱商事、三井物産と利益首位争いをしてきたが、26年3月期の会社計画の利益は伊藤忠商事が9000億円、三菱商事が7000億円、三井物産が7700億円。ライバル2社に対して1000億円以上の差をつける見込みだ。三菱商事、三井物産が2桁減益見込みであるのに対して、伊藤忠商事は資源価格が低迷する中でも3期連続で増益を見込んでいる。

「伊藤忠商事は即戦力型投資を重視することで、着実に利益を積み上げてきている。新社長が就任した丸紅も『時価総額10兆円』を目指すというチャレンジングな目標を掲げて具体的に動きだしており、上位3社に接近する可能性は十分にある。順位の変動や距離の縮まり方という意味では、すごく面白い局面に入っていくとみている」(五老氏)

 東海東京インテリジェンス・ラボの栗原英明シニアアナリストも「伊藤忠商事は実力値を切り上げている。首位定着の可能性は十分にある」と指摘する。

 業績、株価、年収……、さまざまな面で総合商社の注目度はかつてないほど高まっている。次ページでは意外なほど異なる各社の事業戦略についてトップアナリストが分析。このまま伊藤忠商事が首位独走となるのかなど今後数年間の「首位争い」の予測に加えて、崩れ始めた株主還元と投資のバランスについても解説する。

図表:5年後の総合商社(サンプル)