「ハイブリッド車戦略はすべて前倒しにする」(小林浩・ホンダ日本営業本部本部長)
ホンダはインサイトをはじめとしたハイブリッド車ラインナップ計画を見直し、新モデル投入時期を予定より早めてハイブリッド車の普及を加速させる。
その内容とは、2010年前半にCR-Zをベースとした新型スポーツハイブリッドカーを、同年後半に低価格のフィット・ハイブリッドを立て続けに投入するというもの。昨年発表された計画ではフィット・ハイブリッドより先に行なわれる予定だったシビック・ハイブリッドのリニューアルについては時期を検討中だ。
背景にはまず、国内のハイブリッド車市場が予想以上の高まりを見せていることが挙げられる。インサイトは発表後、ホンダディーラーに客足を呼び戻し、4月の国内新車登録台数では1万0481台を記録してハイブリッド車で初めて首位を飾った。
今月18日にはついにトヨタ自動車が新型プリウスを発売、受注はすでに8万台を超えた。
インサイトにしてもプリウスにしても、支持されるのは燃費のよさとともに圧倒的な低価格である。新型プリウスは205万円から、旧型プリウスは装備を簡素化し、インサイトの最低価格と同じ189万円で手に入る。このような販売状況を考えるとホンダが少しでも早く、安いハイブリッド車をたくさん投入したいという意図は想像に難くない。
そしてまた別に急浮上したのが、政府の景気対策に盛り込まれた新車買い替え補助制度終了後の反動で、来年度以降、販売不振に陥ることへの危惧である。ホンダはこの制度による効果を「7万~8万台程度期待している」(近藤広一・ホンダ副社長)が、だからといって制度終了後、景気が急回復しているとは考えにくく、「そのようななかでディーラーや部品サプライヤーのことを考えると、少しでも販売台数を落としたくない、売れるハイブリッド車のラインナップを早く広げていかないと厳しい」(小林本部長)と判断している。
ハイブリッド車戦略の前倒しで、よりいっそう開発が急かされるのが、ホンダとジーエス・ユアサコーポレーションの合弁会社ブルーエナジー産のハイブリッド車用リチウムイオン電池だ。10年秋に量産を開始、「同時期に投入するクルマにブルーエナジー産の電池を使う」(福井威夫・ホンダ社長)ので、フィット・ハイブリッドにはそれまでホンダのハイブリッド車に使われていたニッケル水素電池ではなく、リチウムイオン電池が使われる可能性もある。将来的にはプラグイン・ハイブリッド化も考えられる。
経済環境の急変で、それ以前に立てた計画が通用しなくなったとき、世の中の動きにいかに早く徹底的に対応できるかが、自動車業界で生き残りのカギとなるのは言うまでもない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)