日産がついに電気自動車「リーフ」を初披露した。横浜の新本社でカルロス・ゴーン社長自ら運転し、助手席には小泉純一郎元首相を乗せて登場。1充電で160キロメートル走行可能な5人乗り中型車サイズの電気自動車を、2012年には世界で30万台以上量産する。この強気な計画は「ゼロ・エミッション車(CO2をまったく排出しないクルマ)で世界のリーダーになる」という日産の決意の表れで、自動車新時代の幕開けを感じさせた。
だが現実に目を向けると、本格普及に向けては、価格と充電インフラという大きな課題がある。
これに対して日産は、電気自動車戦略に強気なだけあって、解決するためのまったく新しい手法を打ち出している。
まず価格は、量産してもまだなお高価なバッテリーをリース販売することで購入者が最初に払う費用を抑える。つまり実質価格は国や自治体の補助金を引いた車両代とバッテリーリース代で、日産はこれを200万円台にする方針。バッテリーリース代と電気代がガソリン代を下回れば、同車格のガソリン車やハイブリッド車に対抗できるという考えだ。
そして充電インフラは、関係先と整備を進めると同時に、カーナビで、残電量で走行可能なエリアや充電スタンドの位置情報を表示する通信システムを構築。また、携帯電話から充電の指示や残電量の確認ができるITでのサポートも行なう。
ただ、競争力のある価格も充電インフラの整備も、日産単独でできる話ではまったくない。他業種との協業や、行政のサポートが必須だ。
実質価格の引き下げには当面、国や自治体から多額の補助金が必要だし、充電インフラは電力会社、そして充電設備を置く自治体や駐車場会社、ショッピングセンターなどとの協業拡大が急務だ。
ところが意外なことに、じつは電力会社にとって電気自動車の充電インフラはビジネスにはならない。理由は明白、1基数百万円する急速充電器整備に対して、電気自動車が1回フル充電したところで電気代は100円前後。とても割に合わないのだ。将来的にガソリンスタンドがすべて充電施設に取って代わるとしても、はるか先の話。そのため、電力会社内部でも、協業に対しては推進派と保守派に分かれている。
「現在の取り組みは電気の有効活用先の一つとして可能性を探るため」(東京電力幹部)で、脱石油社会を新たな成長のキーワードに掲げ、普及を急ぐ自動車業界とは、スピード感が異なるのが実情だ。
20年に世界の自動車需要の10%が電気自動車になることを想定した日産の電気自動車戦略は、各国行政や企業と結んでいる現在30近い協業をさらに拡大・加速させる必要があり、その道のりは決して平坦ではなさそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)