出版業界向けの新聞に、経産省のメディアコンテンツ課長のインタビューが掲載されていました。そこでの発言内容からは、経産省がマスメディアやコンテンツ産業の現状をいかに誤って理解しているかが明らかになりますので、今回はこの点について整理してみたいと思います。行政がこの程度の理解で政策を作っているとしたら、本来は成長産業となれるはずの日本のクリエイティブ産業の将来は暗いと言わざるを得ません。

異常なまでの議論の単純化

 マスメディアやコンテンツのバリューチェーンは、ざっくり言って制作(制作会社)と流通(テレビ、ネットなど)の二つに分けられます。そこでは、流通側による制作側の支配(下請け的構造)という伝統的な力関係があるのですが、インターネットの普及以降、ネット上を流通するコンテンツが少ないという新しい問題点も提起されています。こうした現状について、その課長はインタビューで以下のような概要の発言をしています。

(1) 流通側が勝手に過剰投資してチャンネルを増やして、コンテンツの不足を嘆いている。コンテンツが足りないから流通を促進しろというが、流通で過剰投資が起きているだけ。本来ならコンテンツ制作の側に投資すべき。

(2) 一方、コンテンツ制作側は、媒体やメディアに頼ってばかりいて、資金調達でも販促活動でも何の努力もせずに流通側に権利を取られると文句を言っている。そこに、経済危機による広告の落ち込みが拍車をかけている。

(3) 制作でなく流通への過剰投資を生み出しているアンバランスな関係にこそ問題がある。

(4) 従来型メディアはインターネットなどの新しいメディアを“従来のルールを壊すアンフェアなもの”と攻撃し、新しいメディアは、従来型のメディアは古いやり方にしがみついていると嘆く。こんな非生産的な構図はない。

 これらの個々の発言が正しいのは事実ですが、残念ながら全体としては非常に間違った理解となっていると言わざるを得ません。現実にはマスメディアやコンテンツ産業は様々な問題に直面しているにも関わらず、それらを一切捨象して、“制作より流通への過剰投資”、“既得権益にしがみつくマスメディア”と問題を単純化してしまっているからです。