「言論・放送の自由」を、どのように維持・育成していくのか――。

 政権交代に伴う情報が洪水のように溢れ出る中で、見落とされがちとなっているが、原口一博総務大臣が就任直後から民主主義を支える要に関する議論を提起している。

 内閣の構成員の一人である総務大臣の率いる総務省、つまり、時の政権が直接、通信・放送を監視する現行の体制を抜本的に改めて、米連邦通信委員会(FCC)のような“通信・放送の番人”と呼ばれる独立行政法人を日本も設置してはどうかという議論が、それである。

 実は、ある種の日本版FCCの設置論は、数年前、NHKで不祥事が相次いだ時期に、NHK・放送の抜本改革の一案として、筆者も主張した時期がある。時の政権、権力者の総務省がNHKの予算や経営に口出しできる余地のある現体制のままでは、NHKに報道機関としての独り立ちを望むことが難しいからだ。そうした観点に立てば、今回、まさに政権の座に就いたものが、世論形成に有利な放送を監督する権限を自ら手放すと言うのだから、実現すれば、大変な英断である。

 ところが、原口大臣のあまりの正論に、当の総務官僚や放送局は疑心暗鬼に陥り、何か裏があるのではないかと戸惑いを隠せないでいるのが実情だ。原口大臣は今後、1年程度をかけて構想をまとめていくという。その志が貫かれるかどうか見守っていくため、現在の状態を整理しておこう。

日本版FCCが目指すのは
『言論の自由の砦』

 まず、9月17日の未明に及んだ原口大臣の総務省初登庁時の記者会見での発言をご紹介しよう。この会見は、その前日、鳩山由紀夫内閣が正式に発足し、認証式と初閣議を終えて、日付が変わってようやく所管の役所に赴き、その場で行った会見である。原口大臣は衆議院総務委員会の筆頭理事や民主党の「次の内閣の総務大臣」職をつとめた政策通で、地方自治、日本郵政、NTTなどの諸問題と並ぶ懸案として、自民党政権時代から何度も浮かんでは消えを繰り返してきた日本版FCCの設置問題についても質問に回答する形で次のように言及した。

 「日本版FCCについては、(2009年までの民主党の政権公約集で)国民の皆さんにお約束をしたことです」「(放送の自由に、政府が)手を突っ込んでいるように思われては絶対にならないと思っています」「ですから、政治主導になった、この新しい政権で一番大事なものは言論の自由であり、表現の自由であり、放送の自由だ。ということを考えると、政権のガバナンスの外に、一つの規制機関が必要ではないかというふうに考えているわけです」「放送の中身や、表現の中身に立ち入る気は全くありませんが、やはり人を傷付ける、人権を侵害するようなそういうものがあってはならない。また、虚偽というのはもってのほか。(放送業界の)中での改革も必要だなと思っています」。