女性ばかりの部署にいる中田堅司課長が毎月、ひそかに恐れているもの。それは「ブルーデー」だ。
ブルーデーといえば、英語で「生理期間」のことだが、当然ながら中田課長自身が生理になるわけではない。じつはその時期を迎えると、部下がみんな生理、あるいは生理前に突入するらしく、チームが混乱状態に陥ってしまうのである。
お腹を押さえて机に突っ伏し、うめき続けるA子さん。とろーんと眠そうな目で重要書類をチェックしているB子さん。後輩の些細なミスにキレまくるC子さんに、叱られて泣きながらトイレに駆け込むD子さん――。中田氏にとっては、さながら地獄絵図である。
就業規則によると、申請すれば有給で生理休暇がとれることになっているのだが、彼女たちは誰一人取ろうとしない。なぜ申請しないのかおそるおそる聞いたところ、「お局さまが取らないので若手も申請できないのだ」という。もっとも全員に休まれても困るので、中田課長としてはみんなの分まで頑張りつつ、どうにかその時期をやりすごすしかない。
生理の怪奇現象を科学する!
個人差はあるものの、「生理」が仕事に及ぼす影響は、けっして小さくないようだ。周りに当たり散らしたあげく、人間関係にひびが入ってしまったり、痛みで仕事どころではなくなったり。これは、女性はもちろん、一緒に働く男性にとっても深刻な問題である。なにしろ就業人口に占める女性の割合は今や4割。その4割が代わる代わる生理を迎え、心身の負担と闘っているのだから――。
とはいえ、生理によってどんな変化が起こるのか、きちんと把握している男性は意外と少ないのではないか。とくに脳との関係は、女性たち自身にもよく知られていないようだ。あらかじめ理解していれば、指示やコミュニケーションを誤ることもない。そこで今回は、知られざる「生理の怪奇現象」について一挙ご紹介しよう。
■怪奇現象その(1): 生理中は頭が悪くなる?
Q.普段はしっかりしている女性部下が、ときどきとんでもないド忘れをします。彼女の顔色の悪さや、なんとなくつらそうな様子から、ひょっとして「あの日」ではないかと……。生理と記憶力にはなにか関係があるのでしょうか?
A.女性の記憶力や学習力は、生理中に低下し、排卵前後には高まるとされている。これは、女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」のなせる業だ。
そもそも、記憶をつかさどっているのは脳の辺縁系にある「海馬」という器官。ここには、見たり聞いたりした情報が一時的に「短期記憶」としてストックされている。短期記憶はその後、大脳連合野のいろいろな部位に保管されて「長期記憶」となり、必要に応じて海馬に呼び出される。
一連の働きに欠かせないのが、エストロゲンである。海馬の活性化には「長期増強」と呼ばれるシナプスの働きが必要になるが、エストロゲンは海馬の長期増強を高めて、神経細胞を興奮させるからだ。