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森達也 リアル共同幻想論

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なぜ彼はいつも作業着なのか

 時おり金正日のことを思う。今ごろ何をしているのだろうかと考える。……などと書き出すとおかしな奴だと思われるだろうか。そういえば以前、

 「国土は不可侵という思い込みから始まるから、領土問題ってどうしても膠着してしまう。竹島や尖閣諸島など、何かと交換条件に譲渡してしまってもいいのではないか」

 と新聞の対談で発言したときは、ネットで「非国民の森達也は金正日の手先だ」とか「早く北へ帰れ」などと書かれたことがある。竹島の領有で揉めている相手国は韓国だし、尖閣は中国だ。今のところ日本は北朝鮮とは領土問題では揉めていない。まあたぶんこんな書き込みをする人たちにとって諸外国は、同盟国と仮想敵国の2つしかないのだろう。要するにブッシュ式の「敵か味方」か。そして仮想敵国と言えば北朝鮮。回路としては矛盾していないのだろうな。

 とにかく時おり金正日のことを考える。でっぷりと太った体躯。度の強そうな眼鏡。髪は猫っ毛で天然パーマ。テレビなどで彼の映像を見るたびに、藤子不二雄の漫画「オバケのQ太郎」に登場した小池さんを思い出す。年齢的にもきっと金正日と小池さんは近い。あの調子で大好物のラーメンを食べ続けていたならば、今ごろはまさしくあんな体躯になっているだろう。そういえば小池さんも、いつもしかめっ面で何となくヒステリックだった。部屋でラーメンを食べているときに騒動に巻き込まれてよく怒っていた。

 もっともこのイメージについては、あまり決めつけないほうがよい。日本のテレビで観る金正日の映像は、何やら怒ったり怒鳴ったりしている映像が多い。だからといって、彼が普段から怒ったり怒鳴ったりすることが多いと考えることは早計だ。テレビはイメージに合った映像を抽出し、それを繰り返し提供する。金正日については、短気で傲慢で独善的な男だとのイメージがある。言い換えれば視聴者がそんなイメージを求めている。そうなるとテレビはこれに合わせる。このイメージに合わない映像をダーウィニズム的に淘汰してしまう。

市場のニーズが
イメージを作り出す

 数年前の北朝鮮脅威論がいちばんピークのころ、テレビ番組でハングルの翻訳をよくやっていた知人が、「翻訳の方向性が変わってしまった」とこぼしたことがある。

 「変わったってどんなふうに?」

 「たとえば一般の住民が金正日について語るとき、普通に『首領さま』と言っているのに『偉大なる首領さまである金正日同士』にしてくれとか、『決められたことだから仕方がない』と言っているのに『わが国のためだから当然だ』にしてくれとか、とにかく攻撃的なコメントに加工されるんだ」

 「でもハングルをわかる人は日本にだってたくさんいるのに」

 「だからボイス・オーバー(吹き替え)だよ。もとの音はアフレコでつぶして消してしまう」

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著者プロフィール

森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。

この連載について

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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