【第26回】 2009年08月24日
候補者の露出を自粛するメディアのいびつな公平性
精神障害者たちをモザイクなしで撮影したドキュメンタリー映画『精神』が、静かだけど大きな話題になっている。東京では現在、シアター・イメージフォーラムで上映されているが、連日大盛況らしい。つい先日にはNHKの番組でも、この作品と監督の想田和弘が取り上げられていたし、この夏から秋にかけては日本中のかなりの数の劇場で、ロードショー公開が予定されている。
……と書きながら(実のところ自分でも嫌になるくらいにひがみやすくて嫉妬深い性格なので)、かつて2本のドキュメンタリー映画を発表しながら興行的にはまったく成功しなかった立場としては、白状すれば少しだけ複雑な思いだ。
昨年公開されたドキュメンタリー映画『靖国YASUKUNI』は、公開を予定していた都内の複数の劇場が公開直前に中止を決めたことで、結果的には大ヒットになった。自民党の保守派政治家や右翼勢力による表現への弾圧があったとして、新聞やテレビがこの映画を大きく取り上げたからだ。
騒動が渦中の頃、この映画の監督である李纓と2人で、TBSのNEWS23のスタジオに呼ばれ、表現の自由と弾圧について語ってほしいとの依頼を受けた。とてもじゃないが弾圧などのレベルではなく、せいぜいが過剰な自主規制じゃないかとの思いがあった僕は、本番直前に李纓に、「良かったねえ。この騒ぎで結果的には大ヒットだね」と囁いて嫌な顔をされた。何と嫉妬深い男だと思われたのだろう。実際にそうだけど。
でもこのあと、予想どおり地方のいくつもの志ある映画館が名乗りを上げ、さらに都内でも別の映画館で公開が決まり、『靖国YASUKUNI』は日本のドキュメンタリー映画における興行記録を塗り替えるほどのヒット作になった。予想はしていたけれどやっぱり悔しい。錯乱した森達也は、配給会社の策略に自民党の保守政治家や右翼勢力が加担した出来レースだったとの持論を展開して、いくらなんでもそれはないだろうと周囲からあきれられた。嫉妬深いだけではなく、頭も悪いと思われたのだろう。
とにかく『精神』は、昨年の『靖国YASUKUNI』に続き、ドキュメンタリー映画としては記録に残るヒットになると予想されている。でも連載の今回のテーマは『精神』ではなく、想田の前作である『選挙』についてだ。
スクリーンに映し出される選挙活動
2007年に発表された『選挙』は、想田の学生時代の友人で切手コイン商を営んでいた山内和彦が、市議会議員選挙に立候補して当選するまでのドキュメンタリーだ。スクリーンに映し出されるのは、その山内の選挙活動をベースにした日常だ。他には何もない。もしもテレビ・ドキュメンタリーなら、山内の実家とか、(昔の写真などをインサートしながら)幼少時代はどんな子供であったかとか、両親は息子のこの立候補にどんな思いでいるかとか、政治への思いを語る山内のインタビューとか、内心の葛藤を語る妻のインタビューとか、対立候補はどんな人であるかとか、いろいろな要素を加えるだろうけれど、想田はそんな要素に興味をまったく示さない。スクリーンに映し出されるのは、あくまでも選挙にまつわる山内の日常と、想田が手にしたカメラで今撮れるものだけだ。テレビ的な情報は一切ない。
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著者プロフィール
- 森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)
1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。
この連載について
テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!
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