今回の特集は、こんな基本的な議論から始まりました。
格差社会の議論は今に始まったことではありませんが、景気の急激な悪化によって、それがさらに進んで「貧困層の急拡大」が問題視されています。
全労働者に占める非正規社員率が3割、完全失業者に占める失業保険給付率が2割、生活保護を受けるべき人の受給率が2割など、さまざまな数字がこれを裏付けています。
しかし驚くべきことに、日本では政府による“貧困”の定義や調査がなされておらず、国は「日本では貧困は大きな問題ではない」という見解を崩していません。
正直に告白すると、この問題を詳しく知らなかったのは、私とて同じ。しかし、貧困の実態取材や、貧困解消を阻む政策の問題点を探るにつれ、問題の大きさと複雑さ、そして解決方法の難しさを痛感して、頭を抱えました。
よく言われる「自己責任論」、つまり「何らかの努力が足りなくて貧困状態に陥ったのだ」とする見方も、全くの不正解ではありません。パチンコに精を出し、サラ金に手を出した挙げ句にホームレス状態に陥った人に、果たしてどこまで手を差し伸べたらよいのか――。
編集部内や友人などに聞いてみても、皆の意見はバラバラです。私自身もよくわかりません。
しかし、労働市場の歪みや公的支援の不整備に阻まれ、貧困から抜け出せない人が少なからず存在するのも、また事実。
餓死しなければよいというわけではなく、最低限の衣食住に加えて、ある程度の娯楽を楽しめるレベル、そして何より家族を持って子育てできるレベルにまで全国民の生活水準を引き上げなければ、ゆくゆく経済が崩壊し、日本人全体が苦しむことになります。
この問題の解決には、大幅な財源確保が必要になります。しかし、ただでさえ財政赤字が深刻なので、増税で賄うしかない。そのためには、国民全体が“他人事”という発想を捨て、問題意識を共有する必要があります。
脅すわけではありませんが、これを放っておけば、貧困層はさらに拡大して行き、いずれあなたや私が“ブルーシート”で暮らす日が来ないとも限りません。
参考文献を読み漁り、慣れない頭脳労働にバテた数週間でしたが、本誌は頭が疲れない程度にはわかりやすくまとめて書いたつもりです。ぜひご一読ください。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 津本朋子)