上田 90年代は「失われた10年」などと言われ、長らく低迷しました。そして2000年を越え、3年くらい前から景気は完全に回復したと言われていますけど、何か実感がない。しかも、このところ急激に円高・株安が進んでいます。そもそも「景気」とは何なのでしょうか。言葉の意味から探ってみましょうか。

竹中 ある方の説では、「景気」とは、鴨長明の「方丈記」に出てくる言葉であると。景色の「景」に空気の「気」、つまり「空気の景色」なのだということです。まさに「気分」ですよね。「景気は気から」という人もいますが、「景気」の中には単に「経済」だけではなく、気分的なものも含まれているんです。

バブル全盛期でも
庶民の景気実感は悪かった

上田 景気の見方にはいろんな基準がありますけど、どこに焦点を絞って見ればよいのでしょうか。

竹中 エコノミストによって、注目するところが少しずつ違うんです。ただ一番基本になるのは、「国内総生産(GDP)」と「鉱工業生産指数」の2つだと思います。なぜかというと、GDPは個人の所得と企業の利潤の合計ですから、これは日本人が汗を流して生み出した所得の合計。そして、結果的にGDPにかなり影響を与えているのが「鉱工業生産指数」です。GDPは3ヵ月に1回しか発表されませんが、鉱工業生産指数は毎月出ます。両方を見ていくと、ある種わかりやすい基準になります。

 また、景気の動向をわかりやすく得ようとする場合、「月例経済報告」「日銀短観」の2つを見るのが、もう一つの方法だと思います。「月例経済報告」は毎月、総理官邸で総理大臣を中心に、主要閣僚、与党の幹部らが集まった席で、経済の現状について、経済財政政策担当大臣が報告する会議なんです。ここで現在の景気の総合判断を示す。結果が今どうなのかを知りたければ、「月例経済報告」を見るのがいいですね。

上田 竹中さんも以前、担当大臣としてやってましたね。かなり困難な作業だったりするんですか。

竹中 景気が悪いと、担当大臣は皆から怒られるわけです。なぜ悪いのかと。とくに構造改革をしたくない人たちからね。もう一つ、「日銀短観」という指標も重要です。日本銀行が企業に今の景気について聞くアンケート調査です。企業がどう感じているかが端的にわかる。

上田 政府が「景気が悪い」と言ってしまうと、世論に責められ、皆がどんよりした気分になるので、洋服屋の店員さんが似合いもしないのに「似合ってますよ」と言うように、政府に嘘をつかれているような気がするんですよ。

竹中 結論から言うと、日本の政府は、そんなに人の裏をかくほど深くは考えていません。皆さん、実感として景気は悪いと言いますが、面白い一つの例があります。80年代のバブル時代に、景気の実感を聞いたアンケート調査があるんですが、「景気実感はかなり悪い」という結果が出ているんですよ。当時から「大企業は儲かっているけれども、我々の生活はそんなによくない」という実感を国民が持っていた。「実感」には、そういう難しさはあります。