上田 耐震偽装や食の安全問題などで企業のコンプライアンス(法令順守)が問われています。しかし最近では、同時に「コンプライアンス不況」という声も聞かれますね。コンプライアンスは本来は重要なことなのに、「それによって不況になる」というのは、どうしてでしょうか。そもそもこのフレーズ、今まであまり聞いたことがないですが。
竹中 「コンプライアンス不況」とは、実は私たち経済の専門家が作ったフレーズなんです。コンプライアンスは重要なことなので、反対する人はもちろんいません。ただし、コンプライアンスをうまくやらないと経済が大変なことになってしまいます。これはちゃんと議論すべきことです。
法令順守は本来よいことですが、法令で規制が過度に強化されると、それを遵守するために企業活動が萎縮して、経済が停滞してしまいます。
その代表的な例が、日本中を騒がせた耐震偽装事件をきっかけに2007年6月に施行された「改正建築基準法」による混乱です。新規住宅のチェックが厳しくなって建築確認の遅れが続出したため、住宅着工数が激減しました。着工数は昨年11月から回復していますが、いまだに施行前の水準には戻っていません。そのため建設業界では倒産が急増し、住宅と関係が深い耐久消費材の需要もひどく落ち込んでいます。
金商品法や貸金業法は
過剰規制で「不況の温床」に
上田 なるほど。しかし、耐震偽装の家なんかに誰も住みたくないですよ。基準を厳しくするのも仕方ないと思いますが。
竹中 もちろんそうですが、「やり方をきちんとしなくてはならない」ということです。極端な例を挙げれば、交通事故をゼロにするには、制限速度をゼロにしてしまうのが一番よい。でもそれは正しいやり方とは思えませんよね。それと同じことだと思うんです。